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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
335/343

334.何故、どうして。

 わたしは聞き覚えのある声に動揺した。だって彼はまだ――


「――なるほど、それは驚きです……。

 ならば、君の計画はとても上手くいっていた、ということになりますね」


 そう言って、なんちゃら貿易オーナーの東は、心の底から嬉しそうな笑顔になる。


「……こっちこそ驚いたわ。まさか教会に寄付活動までしているような貿易会社のオーナーが、寺院の陥没や花街強盗に一枚噛んでるだなんて。

 ……そして貴方も……」


 未だフードを目深に被る男の方を見据えて、わたしは言った。


「――雷喜さん――」


 彼は瓦礫の下になってしまっているはず……


 どうやって、みんなに気づかれずに抜け出し、結界アーティファクトの所へ行ったのか。それも気になるけれど、それよりわたしが知りたいと思ったのは――


「貴方が……どうしてこんな事を――――」


 寺院の陥没は、三種の神器を盗み出そうとしたカトレイル教会が起こした事のはず。

 宮大工の免許まで持っていて、喜光さんからも信用されているだろう彼が何故?

 カトレイル教会とどんな関係が――


 フードを脱ぎ、顔があらわになる。すると……人懐っこい表情のままな彼は、少し考えるような間を残して言う。


「……一番の理由は、頭の固い古い人達に対する憤りから、ですかね……」


 わたしは、逃げるタイミングがないか、注意深く探りながら話を聞いた。


「再生の日以降、アーティファクトの力は全世界を揺るがし牽引してきた。なのに、未だに手作業の工程の方が主流で重要視されているって。

 おかしいと思いませんか?」

「…………」

「もっとアーティファクトの力を有効に活用すれば良いのに。

 意地でも手作業の工法にこだわる現場が、僕には時代の流れに逆らおうとしてるとしか思えないんですよ」


 彼の言葉に何故だか眩暈がしてくる気がする……


「じゃあ……何故宮大工の資格を……?」


 そこまでいうのなら宮大工の資格なんて必要なかったのでは? そう思ってわたしは聞いた。


「それをとらないと……現場にも出させてもらえないからですよ……。ここの現場にだって、免許をとらなきゃいかせられん、っていうのが親父の言だったんで。大急ぎでとりましたよ」


 苦笑して投げやりともとれる口調で答える雷喜さん。


 大急ぎでもとれたということは……おそらく彼に、その実力が十二分以上にあるから。

 アーティファクトの力を大きく評価してくれていることは、まるで自分のことのように嬉しいけれど。

 彼の言葉からは、まるで子供じみた意地のようなモノを感じる。


「じゃあ……三種の神器の事は……?」


 逃げるタイミングがないならば、なんとか時間だけでも稼ごうと、わたしは聞いた。


「それは僕の知るところじゃありません。

 もうキョウトの方で逮捕されてしまってるので気兼ねなしに言いますが……僕が教団から請け負ったのは寺院を陥没させる事だけです。その先に行われる修復の現場に入るために」

「……!」


 そんな理由であの陥没事件を起こしたのか――


「それに元々、あそこの寺院はそろそろ修復が必要で、ナラの次に修復する候補に上がっていたんですよ。人も少ない時間を狙ってやりましたし、全員助かってるんだから問題はないでしょう?」


 あまりにも軽く、そう笑顔で言う雷喜さんに。

 あの現場の惨状をハッキリと思い出せるわたしは……怒りで震えた――


「さて、お嬢さん。時間稼ぎのようなお話はそこまでにしていただいて――」


 もう、時間稼ぎしていることなんか、頭からすっぽ抜けていたのだけれど。このまま警察が来るまで待たせてはもらえなさそう、か――


「アルジズ!」


 わたしは両手を前に翳し、再び自分を結界で覆った。


「雷喜さん、対応できますか?」

「やってはみますが、あの結界はコレとは違った意味で強力みたいですよ?」


 そう言って腰につけた感知阻害袋を指す。


「視える貴方が言うのですから、そうなんでしょうが、試してみてください」


 視える、ということは雷喜さんも未使用アーティファクトの光を見る事ができるのね……。追跡時アーティファクト達の光を抑えたのは正解だったと。


 でも今はもう――必要ない。


 わたしは今まで抑えていたアーティファクト達の光を開放した。


 そちらに力を割くより、結界の維持に集中しなきゃ……!


「藍華さん……もしかして今までアーティファクトの光を意識的に抑えて……?」


 結界の光の向こうで、雷喜さんが眩しそうに目を細めて言った。


「どうりで貴女の追跡に気づけなかったわけだ――! そしてこの眩しさ……! 貴女はやはり最高だ! よっぽどアーティファクト達に愛されてるんですね――」


 そう、いうと同時に雷喜さんの影がゆらりと動く。


 ゴガッ!!


 結界が雷喜さんの蹴りを受け、その振動が翳す両手に伝わってきた気がする。けれど結界はピクリとも揺らがず。


「オーナー、少し下がっててください。

 この攻撃でダメなら……あんたも少しは手の内を晒してくださいよ?」


 何かアーティファクトでの攻撃がくる――


 多分大丈夫とわかっていても、心臓の鼓動は激しくなる。


 アルジズ、お願い! 水だろうが火だろうが、刃物だろうが! 全ての攻撃を防いで――!


(いで)よ水の刃!」


 雷喜さんは上着のポケットから取り出した入れ物の蓋を開け、中の水が弧を描くように振り撒いた。すると水は中空にとどまりナイフのような形になる。


「行け!」


 水の刃はわたしの結界へと向かって飛んできた。けれど――


 鋭い、まるで金属の刃が当たるかのような音を残して結界に弾かれ、水の刃はパシャパシャと地に落ちる。


 多分さっき受けた蹴りの方がキツかった感じ……。陥没現場の壁を駆け上っていった事といい、絶対に組み合ったらイケナイ人だ。この人――


「ね、オーナー。コレの威力は貴方も知っているでしょう? この結界、俺が対応するのは無理ですよ。彼女のエネルギー切れを待つくらいしかできません」


 待ってくれるならその方がありがたい。エネルギーの総量には自信(?)があるから。


「……しょうがありませんね……」


 東オーナーが動いた。


 もうちょっと効きそうで効かない感じ、と見せた方が良かったのだろうけど――無理! わたしにはそんな器用な事無理!


 次は一体何をしてくるのか、冷や汗を出しながらわたしは必死に結界を保つ。


 せめて警察が到着するまで――


 そう思った瞬間、アルジズの結界が突然消えた。


「――⁉︎――」


 そしてわたしは――


 間近にきた雷喜さんに、鳩尾の痛みに、気付かされることとなる。

 アーティファクトを無効化されたのだと言うことを――――


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