332.黒幕は……
どうか上手くいきますように――
わたしは、電池式に改造した通報アーティファクトを起動して、扉のノブに掛けた。そして暗い通路を見て、途方に暮れてしまう。
「どっちにいったんだろう……」
耳を澄ませてみるも、別段何か音が聞こえるわけではなく。
どうしよう、と焦る気持ちが出てきてしまったその時、わたしはある事を思い出した。
「そういえば……!」
マヤちゃんに、カードの代わりに身代わり護りを渡してる!
すぐに、身代わり護りの気配を探してみると、それは表通りの方にあって、少し高い位置を移動していた。
「上に向かってる……⁈」
急ぎ、通信用アーティファクトを起動させたわたしは、自分の声が大吉さんに届くと信じて、現状を伝えるように話す。
「大吉さん。教会の子供が二人、タロー君とマヤちゃんが建物に入って行ってしまったみたいです……なんとか二人を探し出して、それからこの場を離れます」
『……藍華……⁉︎ まて、それは――』
幸い、声は大吉さんに届いたようだ。けれど、彼の静止する声を、わたしは聞かなかったことにして通信を切る。
ごめんなさい、大吉さん……今すぐ行かないと、きっと間に合わない……!
そしてわたしは動いた。身代わり護りの気配を追って。
二人が通ったらしき階段に辿り着き、見上げてみるも、どうやら階段を上り切ってさらに上へと向かっているようで。わたしは出来るだけ音を立てないように急いだ。
何故なら、感知阻害袋を持つ男もその先、最上階の方にいるから――
「……?……」
その時、感知するという意識を、身代わり護りにも向けたからか。最上階の方に、感知阻害袋以外のアーティファクトの気配があることに気がついた。
弱くてハッキリとはわからないけど……この気配……どこかで――?
そう思いながら急ぎ追いかけるも、二人はすでに三階の最上階まで行ってしまったらしく――
「……ところで何してる!」
階段を上り切った所で、誰か……男の人の叫ぶ声が聞こえた。
「ここは俺たちが秘密基地にしてる場所だ! お前達こそ何者だ⁉︎」
今度はタロー君の声がハッキリと。
わたしは声のする方へと歩を進め、半開きのドアを見つけて、そのすぐ横の壁に背をつけて聞き耳を立てた。
追ってきた感知阻害袋と、もう一つのアーティファクトの気配も間違いなくそこにある。
ただ、そのもう一つも感知阻害系の物らしく、そこに“ある”とわかる程度で、ハッキリとは感じ取れない。
敵は二人……だろうか。
胸と背中とに、冷たい何かが広がっていく感覚がする……これって、めちゃくちゃマズイ状況なのでは──。
わたしは感知能力を全開にして、どうしたら良いかを必死に考えた。
「秘密基地、ですか――楽しそうですねぇ」
雰囲気にそぐわない、ゆったりとした声。
この声、どこかで聞いたような気が――
「おや、そちらの小さいお嬢さんはあの教会にいた子ではありませんか?」
なんちゃら貿易のオーナー⁉︎
「あ、東のおじちゃん! この間は素敵な棚をありがとう!」
「マヤ! そいつに近づくな! どう見ても怪しいじゃないか、こんな所でコソコソと!」
ん、そのとうりなんだけど。わかってるなら早く逃げようか、タローくん!
「うぅむ……ここは一応うちの会社の元事務所なんで。私がいてもおかしくはないのですが――」
「そんなこと言っても無駄だぞ! 俺はしっかり聞いたからな! あの陥没事故もお前達の仕業なんだろ⁉︎」
東オーナーが……
「あぁ、聞かれてしまいましたか……それならしょうがない……ですね――」
「どうするんっすか……このガキ達。俺、いくらなんでも処理までは請け負いませんよ?」
……この声……⁉︎
「君みたいな……そういったことが専門外の人間に頼もうとは思っていませんが……ではカードを無くした借りはどうやって返します? 私はちゃんとあの寺に関する情報を提供したんです。
その報酬であるカードを紛失したのは貴方じゃないですか」
「それは……!」
寺の情報……カードが報酬……?
嫌な予感がよぎる。
カードって、まさかタロー君が持ってた……わたしが修復した、この……
「カードに付いていたコインの在処は判明した……だから今日も策を講じたんだ! どうやら失敗したみたいだが……
それでも俺はちゃんと依頼を果たすために動いている!」
やっぱり……
その時、表裏のない純粋な声が響いた。
「そのカードって、天使様の?」
マヤちゃん――!
「……どうやら……この場所まではちゃんと持ってきていたようですね……」
そう言った、なんちゃら貿易、東オーナーの嬉しそうな声に悪寒が走る。
「じゃぁ――カード紛失の責任は半々だな。
俺は約束通りここまで持ってきてたんだ。あんたが緊急の用事だとかで場所を変更しなければ、こんなややこしいことにはならなかったんだから」
「……仕方ありませんね……わかりました。ですが、カードが見つかるまではご協力願いますよ?」
「……了解した」
どうしよう、大吉さん……このままじゃ――――




