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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
333/343

332.黒幕は……

 どうか上手くいきますように――


 わたしは、電池式に改造した通報アーティファクトを起動して、扉のノブに掛けた。そして暗い通路を見て、途方に暮れてしまう。


「どっちにいったんだろう……」


 耳を澄ませてみるも、別段何か音が聞こえるわけではなく。

 どうしよう、と焦る気持ちが出てきてしまったその時、わたしはある事を思い出した。


「そういえば……!」


 マヤちゃんに、カードの代わりに身代わり護りを渡してる!


 すぐに、身代わり護りの気配を探してみると、それは表通りの方にあって、少し高い位置を移動していた。


「上に向かってる……⁈」


 急ぎ、通信用アーティファクトを起動させたわたしは、自分の声が大吉さんに届くと信じて、現状を伝えるように話す。


「大吉さん。教会の子供が二人、タロー君とマヤちゃんが建物に入って行ってしまったみたいです……なんとか二人を探し出して、それからこの場を離れます」

『……藍華……⁉︎ まて、それは――』


 幸い、声は大吉さんに届いたようだ。けれど、彼の静止する声を、わたしは聞かなかったことにして通信を切る。


 ごめんなさい、大吉さん……今すぐ行かないと、きっと間に合わない……!


 そしてわたしは動いた。身代わり護りの気配を追って。


 二人が通ったらしき階段に辿り着き、見上げてみるも、どうやら階段を上り切ってさらに上へと向かっているようで。わたしは出来るだけ音を立てないように急いだ。

 何故なら、感知阻害袋を持つ男もその先、最上階の方にいるから――


「……?……」


 その時、感知するという意識を、身代わり護りにも向けたからか。最上階の方に、感知阻害袋以外のアーティファクトの気配があることに気がついた。


 弱くてハッキリとはわからないけど……この気配……どこかで――?


 そう思いながら急ぎ追いかけるも、二人はすでに三階の最上階まで行ってしまったらしく――


「……ところで何してる!」


 階段を上り切った所で、誰か……男の人の叫ぶ声が聞こえた。


「ここは俺たちが秘密基地にしてる場所だ! お前達こそ何者だ⁉︎」


 今度はタロー君の声がハッキリと。


 わたしは声のする方へと歩を進め、半開きのドアを見つけて、そのすぐ横の壁に背をつけて聞き耳を立てた。

 追ってきた感知阻害袋と、もう一つのアーティファクトの気配も間違いなくそこにある。

 ただ、そのもう一つも感知阻害系の物らしく、そこに“ある”とわかる程度で、ハッキリとは感じ取れない。


 敵は二人……だろうか。


 胸と背中とに、冷たい何かが広がっていく感覚がする……これって、めちゃくちゃマズイ状況なのでは──。


 わたしは感知能力を全開にして、どうしたら良いかを必死に考えた。


「秘密基地、ですか――楽しそうですねぇ」


 雰囲気にそぐわない、ゆったりとした声。

 この声、どこかで聞いたような気が――


「おや、そちらの小さいお嬢さんはあの教会にいた子ではありませんか?」


 なんちゃら貿易のオーナー⁉︎


「あ、東のおじちゃん! この間は素敵な棚をありがとう!」

「マヤ! そいつに近づくな! どう見ても怪しいじゃないか、こんな所でコソコソと!」


 ん、そのとうりなんだけど。わかってるなら早く逃げようか、タローくん!


「うぅむ……ここは一応うちの会社の元事務所なんで。私がいてもおかしくはないのですが――」

「そんなこと言っても無駄だぞ! 俺はしっかり聞いたからな! あの陥没事故もお前達の仕業なんだろ⁉︎」


 東オーナーが……


「あぁ、聞かれてしまいましたか……それならしょうがない……ですね――」

「どうするんっすか……このガキ達。俺、いくらなんでも処理までは請け負いませんよ?」


 ……この声……⁉︎


「君みたいな……そういったことが専門外の人間に頼もうとは思っていませんが……ではカードを無くした借りはどうやって返します? 私はちゃんとあの寺に関する情報を提供したんです。

 その報酬であるカードを紛失したのは貴方じゃないですか」

「それは……!」


 寺の情報……カードが報酬……? 

 嫌な予感がよぎる。


 カードって、まさかタロー君が持ってた……わたしが修復した、この……


「カードに付いていたコインの在処は判明した……だから今日も策を講じたんだ! どうやら失敗したみたいだが……

 それでも俺はちゃんと依頼を果たすために動いている!」


 やっぱり……


 その時、表裏のない純粋な声が響いた。


「そのカードって、天使様の?」


 マヤちゃん――!


「……どうやら……この場所まではちゃんと持ってきていたようですね……」


 そう言った、なんちゃら貿易、東オーナーの嬉しそうな声に悪寒が走る。


「じゃぁ――カード紛失の責任は半々だな。

 俺は約束通りここまで持ってきてたんだ。あんたが緊急の用事だとかで場所を変更しなければ、こんなややこしいことにはならなかったんだから」

「……仕方ありませんね……わかりました。ですが、カードが見つかるまではご協力願いますよ?」

「……了解した」


 どうしよう、大吉さん……このままじゃ――――

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