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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
332/343

331.たどり着いた場所

 陥没現場から飛び出し、辿り着いた場所は――わたしがまだ来たことのない場所、廃墟街だった。


 ここトウキョウにも、廃墟となり放置されている区域がいくつもあるとは聞いていた。だから、倉庫街を抜けた所に廃墟街がある事に驚きはしなかったけれど、辿り着いた場所は話が別だった。何故なら、そこは喫茶店『碧空』からそう遠くない場所だったから。


 男が陥没現場から少し北上した所にある小さめの橋を渡っていると気づいた時、わたしはしばらく様子を伺っていた。

 勘づかれてしまうかもしれないと心配したけれど、橋の上は意外と沢山の人が行き来していて、感知できるギリギリの距離を保って追うことができた。


 橋を渡り終えてから南下し、店の近くの大通りを抜けて倉庫街に入る所までは、わりとよく知った道で。倉庫街を抜けて廃墟街まで、普通に歩いて五分程度でたどり着いたのがこの場所。


 公共で使用されているアーティファクトの気配が遠く感じる……。

 橋を渡ってからは、まっすぐこの場所まで来たので、なんとか気づかれずに追跡できたのだと思うけれど……まさかこんな場所に――


 わたしは廃墟のビルとビルの間にある細い脇道にいた。感知阻害袋の気配が建物の中から移動しなくなってはや数分。


「ここに入ったら深追いってやつになるのかな」


 ここがアジトなのだろうか……?


 これからどうしようかと思っていた時、通信用アーティファクトのピアスが暖かくなってきているのに気づき、力を解放してみる。


『……ぃか……! 聞こえるか? 藍華!』


 やっぱり大吉さん!


「大吉さん! そちらは大丈夫ですか⁈」


 わたしは小声で応答した。


『だいぶ手間取ったが……たった今、喜光の支えてた瓦礫を処理し終えたところだ。これから下になった者達を助け出す! 藍華は大丈夫か? 今どこだ?』


 わたしは大体の現在地を伝えた。


「ひとまず建物をぐるりと周って、動きがなさそうなら連絡しようと思ってました」

『そうか……周り終わったら、こちらに連絡より先に通報アーティファクトを起動するんだ』

「しちゃって良いですかね?」


 いまいち通報するタイミングがわからなかったのだけれど……


『当然だ。例え逃げられたとしても、空振りでも、そこにしばらくいたのならそこから痕跡を追える可能性がある。そしてそれは、できるだけ早い方がいい』


 警察にはそういうアーティファクトもあるのか……。


「了解です」

『通報が完了したら、ちゃんとどこかに隠れて警察が来るのを待つんだぞ?』

「もちろんです。自分から飛び込んだりなんてしませんよ」


 自分が出来ることの限界はわかっているつもりだから。


「では、行ってみます」


 通信を終わり、わたしは改めてアーティファクト達の光を極限まで抑える事を意識した。もし、向こうに感知の能力があっても見つからないよう。


 三階建てくらいのその廃墟ビル。表にはもちろん入り口や窓が普通にあったけれど、サイドには窓もほとんどなく、少ない窓もすりガラスになっていて中の様子は全くわからない。おそらく元は何か事務所のような物だったのだろう。エアコンの室外機が全部の階に一定の間隔で付いているのも確認できる。


 裏に回るとそこには、一方通行だったろう大きさの道路が伸びていた。もちろんそこにも人影はなかったけれど、注意しながら進み、ぐるりと回る。するとわたしは、そのビルの非常階段を見つけた。


 隣のビルとの間にある非常階段。そのすぐ横に扉があるようで、よく見てみると何故か少し開いているように見える。


「罠…………じゃないよね…………?」


 わたしは不安を感じながらも、扉近くまで進んだ。ここでもう通報アーティファクトを使用した方がいいかもしれない。そう思った時……中の方から何やら話し声が聞こえた気がして、わたしは隙間から聞き耳をたてた。


 位置的に、結界アーティファクトを盗んだ犯人ではない。感知阻害アーティファクトの袋は、もっと表通りに近い方だし上階の方にあるから。


 一体何者が…………


「……んでついてきたんだ! 危ないだろう⁉︎」


 小さな声で、けれど叱るように聞こえたその声。聞き覚えがあるような――――


「だって……タロー兄ちゃん、またどっか行っちゃったらシスターが心配するもん!」

「しーっ! しょうがないな……いくぞ。ほら」


 この声……! タロー君とマヤちゃん⁉︎

 なんでこんな所に――


 急ぎ鉄製の扉を開いて中を覗くと、二人はもうそこにいないようで、暗い通路が広がるばかり。わたしは中にするりと入り、そっと閉めた。

 扉は驚くほど静かに動いたけれど、何かが引っ掛かっているのか数ミリの隙間が空いたままになってしまう。


「無理に閉めない方が良いわよね……」


 とりあえず隙間は残して、左右に伸びる通路を見てみるも、どちらにいったのかはわからない。


 少なくとも陥没現場から結界アーティファクトを持ち去った人物がこの建物内にいる。そんな危険な場所に子供達。


 とにかく二人をこの建物から離れさせないとーー!

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