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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
330/343

329. なんでわたしは……今――!

 アーティファクトとの意思疎通。

 言葉が聞こえるわけではないので、難儀するかと思っていたら、意外と簡単にその意思が理解できた。


 何故なら「コーティングはしない」という言葉には光が消え無反応となり、「コーティングする」という言葉へは、言い終わるのも待たずにキラキラと輝き始めたから。


「どうやらコーティングして欲しいようですね……」

「そうか……じゃあ、その方向で良いんじゃないか?」


 そしてわたしはその晩、やれるところまで作業を進めた。


 ◇◆


 翌日──


 朝のラッシュの時間帯が過ぎ、お客さんが残り二組になった時。わたしはまた時間をいただいて、カード修復の仕上げに取り掛かった。


 昨晩のうちに、両面コーティングまでを完了させていたので、まずはその確認から。


「ん。よし、良い感じ。あとは──」


 両面のコーティング具合を見て、気泡も入っていない事を確認したわたしは、はみ出た部分をカットしてヤスリで整えて。金属のフレームで補強していった。


 ほんの少し厚みが出てしまったけれど、これなら落としたくらいでコインが落ちることはもうないだろう。


 修復を終えるとちょうど、大吉さんから手伝いの要請が来たので、カードを少し大きめのケースに入れて、いつでも返しに行けれるよう、お出かけ用ポーチに入れておく。


 下りていくと、店はすでに昼のラッシュを迎えていた。


 約束通り来てくれたおじさん達にもランチをお出しして、談話しながらどんどんと時間は過ぎていき――だいぶお客さんが引けてきた頃、大吉さんが言った。


「藍華、そろそろ出る準備をしてきてくれ」

「わかりました。準備を終えたら差し入れの用意、交代しますね!」

「おう。あ、フル装備だぞ?」

「それなんですが……棒人間のオマージュネックレス、メガネ留めチェーンの部分に不具合が出てることにさっき気づいて……」


 こちらにきて使用頻度が高かったからか、肌に触れる部分のワイヤーコーティングが劣化して錆が出てきてしまっていた。


「今日は置いていこうと思ってます」


 酷い金属アレルギー持ちではないけれど、リフォームする時期がきたのだな、としみじみ思いながら伝えた。


「トップだけでは使えないのか?」

「わたしもそう思って鑑定してみたんですけど。どうやら、メガネ留めチェーンがコントロールの要らしくて……トップだけだと浮遊させた途端、どんな速度でどこに飛んでいくかわからないみたいです……」

「それは……やばいな──」


 鑑定してみて心底よかったと思った。

 ちょっとやってみてもいいかな、なんて試した瞬間に。もしかしたら床や壁に穴を開けてしまっていたかもしれないから……


「まぁ……これまでも瓦礫を退ける時と、花崗岩の採取の時にしか使っていないし、問題はないだろう」

「代わりになんですが、新作のアーティファクトを持っていこうと思ってます。未実験物ですが……鑑定してみたら結果、いざという時に役にたつと思ったので……」


 思いつき、ちまちま作り続けて昨晩完成したアーティファクト。“オートで発動する防御結界のアーティファクト”を、試してみたくてうずうずしていたわたし。


「身を守るタイプのやつか?」

「はい」

「……帰りにちょっと実験しにいくか」


 大吉さんは、苦笑しながらそう言った。


「ありがとうございます!」


 手早く用意をし、わたし達は店を閉めた。そして、ボランティアの方々への分も兼ねて、少し多めの差し入れを持って陥没現場へと向かう。


 時刻は十七時少し前。現場に着くと、少し早めに終業したのか、ボランティアの方々が何人か現場から出てきていた。


「すみません、責任者の喜光はどこですか?」


 大吉さんが聞くと、ボランティアの方が「彼ならまだ奥の方にいますよ」と教えてくれた。


 その時、何かの影が動いた気がしてわたしは空を見上げる。


「大吉さん! あれ――!」


 崩れかけたビルが、皆んながまだいるだろう現場に向かって落ちてきている。


 なんでわたしは……今――!


 そして現場奥の方から、吉光さんらしき叫び声が聞こえた。「全員逃げろ!」と。


「……! 結界があるから数秒は保つ……だが──」


 大吉さんが言った瞬間、薄赤い光の膜が現場を囲み、落ちくる瓦礫を空に止めた。けれどそれはほんの数秒のことで──


 再び降下をはじめた瓦礫はあっという間に地響きを立てて墜落し、現場を土煙で覆った。


「大吉さん……!」

「行こう!」


 わたし達は差し入れに持ってきた物をその場に置き、奥へと走った。


 ズズンッ


 再び何か重い物が落ちるような音に、さらに土煙が上がってくる。


「風で視界を確保します!」


 わたしは両手を土煙の方に突き出して、ポケットの中のアーティファクトに語りかけるように念じた。


 お願い――!


「風よ、土煙をここから外へ出して!」


 すると、空から風が降りてきた。そして陥没現場の奥の方から、大通りの方へと向かって掻き出すように土煙が飛んでいき、すぐに視界が開ける。


「――!――藍華“補助”を頼む!」


 大吉さんが何かを確認したらしく、奥の現場へと走った。遅れてわたしはそれを目視する。


「これは……!」


 喜光さんが蔦のアーティファクトで巨大な瓦礫を支えていた。

 けれど、その下には間に合わなかっただろう瓦礫が――!


「喜光! 状況は⁉︎」

「大吉! 最悪に近い――! 地震でも起きなきゃ崩れてくるはずのない隣のビルが落ちてきやがった……!」


 見上げてみると、陥没現場の壁が一部分くり抜かれたように削れているのが目に入る。


「結界アーティファクトが働いてくれたおかげであらかたの者が脱出は出来たが……ボランティア数人と雷喜、林太郎、宗次が深部にまだ……!」


 雷喜さん達も……!

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