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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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325.品の良さそうな紳士

 しばらく歩くと、商店街と住宅街のちょうど切り替わるあたりで屋根の上に十字架を持つ教会が見えてきた。


「あそこがそうだ」


 けれど、入り口の所に大きな屋根付きの馬車が止まっていて、すぐに入ることは出来なさそう。


「古くなった家具類の入れ替えか……?」


 大吉さんが立ち止まり、そうつぶやいた。

 何やら男の人達が数人がかりで、大きな何かを運び出してきていた。布で包まれているので、詳細はわからないけれど、食器棚くらいの大きさはある。


 その後に続いて、身なりが良く上品そうな口髭を蓄えた紳士が出てきた。背が高く、髪は黒々としているけれど五十代後半くらいだろうか……運び手さん達に何やら指示を出しているようだが……わたしは、彼の持つアーティファクト達の光具合がどうにも気になり、眉をひそめた。


「あれは……」

「お知り合いですか?」

「あっちは俺の事を知らないだろうが……アーティファクトを含む、高級な輸入品を扱う店のオーナーだ。教会なんかとは縁がなさそうなんだが……」


 そう言って、大吉さんは運び出し作業を眺めていた。


「…………慈善事業でもはじめたんじゃないですか――?」


 昔の、自分が施設にいた頃のあまり良くない思い出が頭をよぎった。

 良くない感情が出てきそうになったわたしは、一度言葉をそこで止める。


 子供達が心身共に健康で、少しでも幸福に過ごせるのであれば……誰が何をしてくれても良いのだ。


「裕福な方々は……そういった事をステータスとしてする場合があると思うので…………」

「なるほど」


 作業の邪魔になってもいけないと、少し離れたところで待っていると、


「教会に御用ですか?」


 こちらに気づいた背の高い紳士が、人当たりの良さそうな笑顔で話しかけてきた。


「そうです。が、そちらの作業が終わってからで大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。すぐ終わりますので……もうしばらくお待ちください」


 大吉さんが前に出て対応してくれたので、わたしはそのまま隠れるようにして様子を伺う。


「大きな家具の移動ですか? 大変ですね」


 大吉さんがそう言うと、紳士は綺麗に整えてある髭を撫でながら答える。


「随分と古い食器棚が壊れそうだとうかがったのでね、子供達が怪我をしないように新しい物を寄付させていただくことになったのですよ」

「ほぅ、それはすばらしい。さすがトーニチ貿易のオーナー、(ひがし)さんだ」


 大吉さんがそう言うと、東さんの右眉が一瞬だけ僅かに上がった。


「私の事をご存知で……?」

「前回のアーティファクト展示即売会、貴方の所の商品が一番素晴らしかったですから!」


 展示即売会? 何それ行ってみたい。


「アーティファクトを扱う商売してる人間で貴方の事を知らなかったら、モグリですよ!」


 はっはっはっは、と少し芝居がかったようにセリフを述べる大吉さん。どんな笑顔をしているのか、わかる気がするのは。わたしの単なる妄想か、はたまた──


「お褒めに預かり光栄です――」

「金額が張るので、なかなか購入までには至らないんですが……。これからも、外国からの珍しいアーティファクト、楽しみにしてますよ」


 言って、右手を差し出す大吉さん。

 東さんは、人の良さそうな笑顔のまま、その手を取り握手をした。

 その時、運び出しの作業をしていた人の一人が荷馬車の幕を紐で固定しながら声をかけてくる。


「東さん、運び出し完了しましたよ!」

「わかりました、では出発しましょう」


 振り向きながらそう答えると、手を離し変わらぬ笑顔でわたしの方も一瞥しつつ言う。


「では、私はこれで。失礼します」

「お気をつけて」


 ヒラヒラと手を振りながら見送る大吉さん。

 馬車が出発してしばらくすると……


「いけすかない感じはプンプンするんだがな。

 藍華も何か感じたか?」


 握手した手を、ポケットから取り出したハンカチで拭きながら聞いてきた。それを見て、苦笑しながらわたしは答える。


「わたしは……ああいうタイプの人に対する偏見が先に立ってしまうので……。何とも言えないです……」

「…………」


 関わりたくない。直感的にそう思ったら、それ以上深く知ろうとは思えない。自分を守るためにも、意識的にそうしてきたモノはなかなか変えることはできない。

思ったのは、できるだけ関わりたくはないタイプの人だということだけ。ただ、気になるのは──


「ただ……あの人の持つアーティファクト、光り具合が他の人と違うのは気になりました……」

「光具合?」

「えぇ。わたしに見えるアーティファクトの光の色って、通常は暖色系なんですけど。あの方の持つアーティファクトの光はは寒色系でした」


 水や、氷を扱うアーティファクトでさえその放つ光は黄色などの暖色系なのに……あの人のは何故…………?


「珍しい外国製の物だから、ってことはないか?」

「可能性は無くはないですけど……って、お店には外国製のアーティファクトってないんですね?」

「店にはないな……博物館に行ったらいくらかあるが」


 博物館⁉︎ そこも行ってみたい。


「近々連れていってやるよ」


 心の声が聞こえたのか。大吉さんはそう言うと、わたしの頭を軽く撫でた。


 あぁ……この動作一つだけでもぅ…………


 寄っていた眉の間が緩むのが、自分でもわかる。我ながら現金だとは思うけれど、この一瞬を心の底から幸せだと感じる。


 その時、教会の奥の方に庭があるのか、子供達の声が聞こえてきて、


「さ。行ってみるか」


わたし達は教会の中へと入っていった。


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