322.通報用アーティファクト
「もし同一犯なら、狙われた理由があるはずだが……共通点は今のところ見えないな」
書類に書き込みが終わったらしい蓮堂さんが、そう言いながら懐から何かを取り出してわたしの前に置いた。
「これは……?」
蓮堂さんが差し出してきたソレは、桜の形のアーティファクトだった。
金の桜の空枠に、花びらの部分は透明で薄いピンク。中にはキラキラと虹色に輝くモヤがかかっているようで、シンプルで可愛い。
「大吉にも、舞子にも渡してあるが、警察に通報するためのアーティファクトだ。ただし、一方通行で発動中、十秒はその場から動いたらいけない」
「コレな……もうちょっと改良できたら良いんだがな……」
大吉さんが苦笑しながら言った。
「面白いですね、動いたらいけないって」
「場所特定のためにどうしても、な」
なるほど。
「これを発動すると、警察がソコに駆けつける。ここの所轄内なら大体三分以内で来ると思っていてくれ」
「凄いですね……!」
見たところ、電池機能や遠隔系の機能は付いていないらしく。
「十秒動いたらいけないんですね?」
「そう」
「その時間を短くするか、遠隔にするかとか、色々試したんだが上手くいかなくてな……十年以上進化してないアーティファクトの一つだ」
何やら思うところがあるのか、大吉さんがブツクサと呟いた。
「ま、コレがあっても単独での行動は控えた方が良いだろうが」
「当然だ。絶対に一人にはさせない」
間髪入れずに大吉さんがそう答えたので、色々妄想してしまったわたしは、顔がほてるのを止めるのに必死だった。
そして、まだ仕事があるという蓮堂さんにお礼を言って、わたし達は署を後にした。
「すみません、食材とかせっかく手配してたのに……」
家路に急ぐ人達で賑やかな大通り。もうすっかり日が暮れて、店を開くにも、もう時間はなさそうで……わたしは大吉さんに謝った。
「店とか食材より藍華の方が大事よ! ね⁉︎」
「……あぁ」
左側から舞子さんが言い、右側で大吉さんが相槌を打つ。
「舞子さんはお店の方……間に合いますか?」
「うちは私が行かなくてもお店の子達が用意してくれてるから大丈夫よ」
それなら良かった、と胸を撫で下ろしたところで、ふと思い出し大吉さんに聞いてみる。
「あの……明日、舞子さんのお店の方にある教会まで行きたいんですけど……今はやめといた方が良いですかね……?」
「……例のコインか?」
「はい」
カバンの底にしまっちゃっていたあのコイン、早く返してあげたい。
「教会に行くの? 昼頃なら私も起きてきてるから、寄って行きなさいよ」
舞子さんの言葉に大吉さんは少し考えるような間をあけて言った。
「そうだな……昼の少し前なら……」
「ありがとうございます!」
「外出時、しばらくは護衛時のフル装備を持つんだぞ。何があっても身を守れるように」
大吉さんに心配をかけない、迷惑をかけない、できたら役に立てるように。
そう心の中で付け足して、わたしは答えた。
「はい!」
やっぱり計画中の物、作ってみよう。自分の意識外からくるモノからも身を守れるようなアーティファクトを──
「じゃあ、ここで。ところでその袋、修復依頼の物なら預かるぞ?」
舞子さんのお店はまだずっと先にあり、別れ道にて立ち止まった大吉さんが、そう言いながら手を差し出した。
「珍しく気が効くじゃない!」
「……修理費値上げするぞ」
「事実でしょー?」
渡された袋をジト目で見ながら受け取ると、ちゃかしてくるような舞子さんの言葉に、大吉さんは真剣な表情で答える。
「まだ犯人が捕まってないんだ……余分な外出は控えた方が良いだろう……。気をつけて帰れよ?」
「あんたと違って、私は私を諦めてないの。トレーニングを休んだりとかしてないから大丈夫。最低限自分の身は自分の力で守れるつもりよ」
そう言う舞子さんからは、もう茶化すような雰囲気はなく。大吉さんのに似た闘気のようなものを感じて、その言葉が過言じゃないのだろうとわかる。
「でも、いざとなったら、ちゃあんと助けを呼ぶわ」
ポケットから、通報アーティファクトをチラ見せして「じゃあね」と言って歩き出した。
その優雅な動きは夜道に輝いて見えて。色んな意味で心配な気がする。
「今日は本当にありがとうございました、お気をつけて!」
「また明日ね〜!」
見惚れるようなにっこり笑顔で振り返り手を振ると、舞子さんは人混みに紛れていった。
「さ、藍華。帰ろう」
「……はい」
大吉さんに促され、大通りから店のある横道へと歩を進めた時。道の奥の方へ向かう人達の中に、見覚えのある服装の人物が見えて、わたしは一瞬立ち止まる。
「タロー君……?」
ハンガリータイムで月曜日更新ってことで、勘弁してくださいー_|\○_(土下座)




