320. 謎資材と偶然出会った舞子さん
錆びついていない銀色の蓋を見る限り、蓋はステンレス素材のようだ。
手にとって太陽の光に翳してみるけれど、白い粉にしか見えない。けれど、視る力で見ると、その輝きは太陽に匹敵するのでは、というくらいのもので……
まぶし‼︎
直視できず、反射的にわたしは力を閉じた。
「お嬢ちゃん、気になるなら安くしとくから買ってってくれないかい?」
「え、いいんですか?」
お店のおばさんに声をかけられて、反射的にそう答える。
「ただねぇソレ、何度か売れたけど、すぐ返されちゃって。理由を聞いても、なんだか悪い事が起こるんだとしか言われない、そんな曰く付きなモノでもよければ、なんだけど」
そう言ってカラカラと笑う。
そこまで悪い雰囲気があるようには感じないけれど……
「どういう……何からできてる粉かわかりますか?」
「何かの石を削った粉らしいよ。石像か何か、作る時に出たやつだって言われて仕入れたんだけどさ」
もしかしてその石像が物凄いアーティファクトになってたりとかするんだろうか……。そして自分も凄いアーティファクトになりたい……とか。
眩しすぎて視る力で直視できなかったソレに、わたしは心の中で語りかけてみる。
凄いアーティファクトになれるかどうかはわからないけど、わたしのとこに来てみる?
光は見えないし声が聞こえるわけではないけれど、何故だか“是非!”と言われてる気がして。
コレがただの妄想だとしたら、どれだけ都合のいい脳みそしてるんだろうか。そう苦笑しながら、わたしはお店のおばちゃんに伝える。
「じゃぁ、ください。おいくらですか?」
聞いてみるとなんと、ワンコイン。あまりに安かったので、他にも良さげな資材をいくつか購入し、ポーチに入れた。
「ありがとうございます!」
「こっちこそ! まぁ……なんだね、何か問題あったら、戻してくれて良いからね!」
「……はい!」
骨董市は明後日までだそうで、その間ならトウキョウにいるから、とおばちゃんは教えてくれた。
さて……君はどんな作品になりたい……?
小瓶の粉に語りかけるように、ぽんぽん、とポーチの上からなでて、次のお店へ行こうとした時。
「あら、藍華じゃない」
「舞子さん!」
両手いっぱいに荷物を抱えている舞子さんと遭遇した。
「すごい荷物ですね……! 手伝いましょうか?」
「あら〜ありがとう! でも大丈夫よ! 私、力は人一倍あるから」
舞子さんはそう笑顔で言うけれど、わたしが気になったのは嵩張り具合で。
「舞子さんも骨董市を回ってるんですよね?」
「そうよ! この市が立ってる時がチャンスなのよ!」
話を聞くと、年に二回立つというこの骨董市にて。ピンと来る物を仕入れておき、大吉さんに修復を依頼したりしてお店の方で使用するのだとか。
「私はアーティファクトの良し悪しなんてわからないから、本当に直感で仕入れてるのだけどね〜! 大吉からはいつもハズレがないって褒められてるわ」
野生の勘……?
「まだ回るんですか?」
「もちろんよ! あともう半分くらい、気合い入れて行くわ!」
「じゃ、一緒に回りましょう。ということで、ソレはわたしが持ちます」
スルッと舞子さんの左手から袋をいただき、自分の左手にかける。
「片手、空いてた方が色々見やすいですし」
「…………」
目を丸くして、わたしを見ながら舞子さんは言った。
「貴女……本当に大吉には勿体無いっっ……!」
かくして、わたし達は一緒に骨董市を回ることに。
舞子さんの選ぶアーティファクトは、確かにハズレがないようで、どれも光具合の良い物を選んでいる。
そして、値切り交渉は大吉さんと同じくらい……いや、大吉さん以上に上手だった。
「さてと、あとは……そろそろハロウィン用の物を新調しておきたいのよね〜」
「ハロウィン、ですか……?」
色々な行事を取り込み楽しむ風習は、ここでもしっかり根付いてるよう。
「そう。去年までは魔女の館みたいな雰囲気の内装にしてたんだけど……」
気になる。あの素敵空間が魔女の館って。
「魔女以外でハロウィンというと……カボチャや他お化け……あと、ドラキュラですかね」
「ドラキュラ!」
わたしがあちらで見たことのあるハロウィンの物を思い出しながら呟いていると、何かピンときたらしく、舞子さんは目を輝かせ、言った。
「いいわね、ソレ!」
空間系アーティファクトは、ガラスドームで覆われている物が主らしく。大抵は大吉さんにオーダーしているそうで。
「じゃ、そういう雰囲気の資材探すの手伝ってもらっていいかしら?」
「もちろんです!」
わたし達は資材となりそうな、ドラキュラっぽい“何か”を探すことになった。
ドラキュラというと……寂れた洋館、棺桶、コウモリ、etc
ミニチュアの洋館なんかあったらいいだろうな。そんなことを考えながら、わたし達は次へ次へとお店を移動していった。
そして、修復必須な訳あり品ばかりが置かれているお店にて、わたしは良い感じのミニチュア洋館を見つけ手に取ってみる。
コレならもしかしたらそのままでもイケるかも!
「舞子さん、コレはどうで──」
少し先に進んで行った舞子さんを呼び止めようと声を上げたその時。
突然背後から布で鼻口を押さえられ、わたしの意識はそこで途切れた────




