319.骨董市
「じゃ、コレで一安心って事で。今日もモリモリ作業を進めるぞ!」
喜光さんの言葉に、一同気合の入った声で返事をしていた。
「これから俺たちは作業に入るが……せっかくだから見てくか?」
「店も開けないといかんからなぁ……買い出しが……」
喜光さんの言葉にそう言いながら、少し迷うような顔をして、わたしを見る大吉さん。
「三十分。三十分だけで良いので……! ダメですか……?」
わたしは両手を顔の前で合わせて大吉さんに頼み込んでみる。
「まぁ……三十分なら」
「そうか、じゃあ……お前達! 三十分だけ気合入れて作業だ! 二人に俺達の仕事がどんなものか、見せてやろうぜ!」
喜光さんの声に、一同拳をあげ「おう!」と声を上げて応えた。
「俺の勇姿、見てってください! 藍華さん‼︎」
雷喜さんが、嬉しそうにそう言い、わたしは苦笑しながら言った。
「皆さん、ありがとうございます」
そして、わたしは彼らの作業の一端を見せてもらう事ができた。
その場にあるバラバラになっている木材を集め、それがどこの部位だったかを調べる作業。
破片や折れた部分を集め、一本の柱に復元する作業。
それを繰り返し、最終的に組み上げていくのだそうで、まず全ての部品の修復からするのだそう。
実際に見せてもらい。地道な作業が続く、本当に大変な作業だと言う事がわかった。
「一番大変なのは、選り分けの作業だな、どの破片がどこの物か。疲労が出てくると、それを判別するアーティファクトの制度も落ちてくるから。無理はできん」
それを担当しているのが雷喜さんと康介さん。二人で交代しながらやっているようだった。
「ま、それでも明日明後日でボランティアの派遣も来るらしいから、作業は一気に進むだろう」
ボランティアのお仕事は、その選り分け作業がしやすくなるように、積み重なっている木材の破片を並べることらしい。
「よかったら藍華さんも手伝いにきてください!」
雷喜さんがにこやかに話しかけてくる。が、わたしは苦笑しながらお返事をした。
「……タイミングが合いそうでしたら」
マスター試験、受ける受けないにかかわらず、勉強はしておきたいし、視える力持ちの喜光さんの前で、アーティファクトを扱うのに少し抵抗感がある……。
「はっはっは、よかったら大吉も来てくれ。ボランティア」
「コーヒーの差し入れは約束しとこう。ボランティアは藍華の言う通り、タイミングが合ったら、な」
大吉さんは腕を組みながらそう答えた。
「そういえば、今日か? すぐそこの広場で骨董市が立っていると聞いたんだが、大吉達も行くのか?」
「骨董市……?」
「あぁ、そういえばもうそんな時期か」
ここの骨董市が、ただ古い物を売っているだけではないということは容易に想像がつく。
見てみたい。いや、見たい。
チラリと大吉さんを見ると、バッチリ目が合ってしまい、そのまま離せなくなる。
「買い出しついでに覗きにいくか」
その言葉に、心が躍った。
「ありがとうございます!」
そして、わたし達は作業を見せてもらったお礼を言って、修復現場を後にした。
骨董市は、先日行った土曜市の立っていたところで開かれているらしく、わたしはウキウキが隠せず、自然と足早になっていた。
「藍華、ちょっと待て。コレ渡しとく」
そう呼び止められ、渡されたのは、大吉さんが予備として使っているお財布。
「え……お借りしちゃって良いんですか?」
市場に向かう道、わたしの脳内は骨董市に対する期待と妄想でいっぱいで、それが顔に出ていたらしい。
「借りる、というか……給料、というか……。それで好きなもの買うと良い」
「──ありがとうございます!」
飛びつきたい。今、大吉さんに飛びついて喜びをあらわにしたい。けど──まばらだけれど人のいる路上では、と伸びそうになる手を抑えて財布だけを受け取る。
「俺は食材の手配と買い出しに行ってくるから、先に骨董市に行っていてくれ」
「待ち合わせはどうします?」
何時ごろどこに、と聞こうとすると、大吉さんは耳につけているイヤカフを指して言った。
「俺の用事が終わったら連絡する」
そうでした。あまり使う機会がなく、忘れがちだけれど、連絡を取り合うためのアーティファクトもあるんだった。
「了解です!」
大吉さんと別れ、私は骨董市を舐めるように見ていった。
市場は、街中の広場を利用して露店が立てられていて。広場に向かう小道までも、人が沢山いるようだった。
時々びっくりするような光り具合のものが散見され、ウキウキが止まらない。
気になったのは、明らかに修復が必要そうな物にも強い光の見える物があったことと、資材市場でも、光り輝く素材を見かけたこと。
やっぱりコレは……良いアーティファクトになる素質のある物の光も見えているということなのだろうな…………
財布の紐が緩みまくりそうだったわたしは、頑張って何にも手を出さず、先へと進んでいく。
そして、とある資材屋さんの一角で、白い粉の入った小さな小瓶を見つけた。




