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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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314.原石代わりの石像

「で。これをレプリカにして原石代わりに……?」


 なかなかに圧迫感のあるソレを前にわたしは呟いた。


「そう。コレほどに質のいい御影石はそうそうないからな!」

「言われた時はまさかと思ったが、コレだけの量の物を採取出来たってことなんだな?」

「もちろんだ。質もいいとこをチョイスしてきたからな。遜色ないレプリカができると思うぞ」


 なるほど。それであんなに沢山必要だったのか。


「そりゃ楽しみだ。で、作業時間だがどれくらい──」


 蓮堂さんがそこまで言った時、ピーッピーッと小さな警報音のようなものが鳴り出した。


「何だ⁉︎ 招集時間にはまだ早い──」


 驚愕の顔をして蓮堂さんが入り口をみると、


「やぁやぁ! 久しぶりだね大吉くん!」


 ドアを開けて入ってきたのは。石像と同じ体格に顔。


「署長! あんた何でここにきたんだ⁉︎」


 警察署だった。


 うわーそっくり。物凄い腕のいい人が作ったんだなぁ。


「お久しぶりです、署長。この度は署の大切なこちらのレプリカ化の許可、ありがとうございます」

「気にしないでくれたまえ。この御影石が高品質なのは確かだし、寺院の方の事態も切羽詰まったもの。自分の分身のようなコレが役に立つならとても誇らしく嬉しいことだよ。例えレプリカ後……バラされるとしても──!」


 そう。悪用されないようにするためにも、このままでは署から出せれないのだから……石像を……人の形をした物をバラすのって、なかなか勇気が要るような気がするな……。


「俺もものすごく心苦しいです。署長の姿したモノをバラさないといけないの……。

 でもそのまま署から出して悪用されたら元も子もないですし、この度の署長の判断、英断に感謝します」


 何か。妙な饒舌さを感じて大吉さんを見上げると、何か違和感を感じるわたし。


「いやいや、警察官としては当然のことだよ。ところで、こんな機会滅多にあるものじゃないから、レプリカ作業の後記念撮影させてもらっても構わないかね?」


 記念撮影。思わずポカンとしてその署長の顔を眺めてしまう。このお顔が三つ並ぶということか。

 質量的に部屋が狭く……。いやまぁ確かに面白そうではあるけれど……。


「あ、バラす作業の時は僕は退室するよ。流石に自分と同じ姿のものがバラされるシーンを見たいってほどマゾではないのでね」


「もちろんですよ。作業工程はご覧になりますか?」

「いいのかい?」

「もちろんですよ」


 終始にこやかなやり取りに、わたしは大吉さんの違和感の正体に気がついた。


 声や表情からはそうは見えないけれど。


 笑ってる。だって時々肩が小刻みに震えてるのだもの。


「ところでそちらのお嬢さんは?」


 お嬢さんという歳でもないと思うのだけど。


「はじめまして、大吉さんの所で修行させてもらってる藍華と申します」

「藍華は俺よりも優秀なマスターになりますよ。警察の装備一新の時にはよかったらご贔屓に」

「そうか、先が楽しみだな。よろしく、藍華さん」


 軽く握手をして挨拶を完了し、署長と蓮堂さんとわたしの見守る中、三十分ほどで大吉さんはレプリカ作業を終えた。


「さすがだなぁ大吉くん! どっちが本物か、見分けがつかないほどだ!」


 同じ顔が三つ。うち二つは石像だけれど。


 このような造形でもどこか空気が澄んだ感じがしてくるのは、さすが御影石というべきか。

 あの昔懐かし墓場のような空気感がそこにある気がした。


「では署長、記念撮影も済みましたのでそろそろ……」


 連動さんに促され、署長は後ろ髪引かれるようにして退室した。


「さて、ここからだが」

「おう」

「お前たちには事が終わるまで部屋の隅にいてもらうことになるが、大丈夫か?」


 “事”とは。このレプリカをバラす作業のこと、だよね。


「俺はもちろん。藍華は……」

「バラす作業は大吉さんがするんじゃないんですか?」


 今のセリフだと、大吉さんも一緒に部屋の隅にという事になるの? なんで? とわたしが聞くと。


「はじめはそのつもりだったんだが。蓮堂に話したらぜひと言われてな……」


 大吉さんが何か言いにくそうにそこまで言うと、またドアが開けられる前の警報音が鳴り響く。


 一体誰が……まさか署長さんが名残惜しくてもう一回見に来たとか……⁉︎


 そう思って入り口をじっと見ていると──


「失礼します!」

「失礼します‼︎」

「蓮堂警部、来ました!」

「本当にヤッていいんですよね⁉︎」

「この度はありがとうございます!」


 やってきたのは制服を着た警官が五人。


「この度は我々の我侭な提案を呑んでくださって感謝します!」


 一人がそう言い敬礼すると、残りの四人も均整のとれた動作で後に続く。


「いや、一手間分やってもらえるなら助かるんで。こちらこそ、強力に感謝する」


 大吉さんがそう彼らに言った。


「拳大の塊をいくつか残したら、あとは好きにして良いということでしたが……」

「あぁ、問題ない」


 まさか。


 警官たちは、それぞれに懐からアーティファクトを取り出し、作業にかかった。


 解体という名の破壊作業に──

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