312.一緒に見たい景色とお皿
「そっちの方にはザレ場があるな……。砂ほど細かくはないが、滑って転ぶと地の底の方まで行っちまうから気をつけて行こう」
「地の底まで……」
ゴクリと唾を飲み込む
「ザレ場までも遠くはないから、何だったら飛んで行っても大丈夫だぞ?」
「滑りそうになったらそうします……」
水の流れていた跡にそって進んでいくと、小石が増え、水が押し流してきたのかパラパラと砂が見えてきた。
視ると、その砂は全部光っている。
期待を胸に大吉さんの後に続いて進んで行くと、私は光る石原を目にすることとなった。
「わぁ──すごい……!」
ザレ場と呼ばれる場所に到着したわたしは感嘆の声をあげた。
そこは視る力を使わなければ、それはただの暗い小石の原。けれど力を使えば幻想的な、一面光る小石の原だった。
ただ、大吉さんの言っていた通りそこはゆっくりとした傾斜になっていて、少し先の方は急に落ち込み、石の光すら見えないほどに暗い。ここを滑り落ちていったら地の底か……。
気をつけて歩こう。
「集まってるからなのか、光量がすごく感じます」
「そんなにすごいのか?」
「はい!」
興奮気味に答える私に、大吉さんは残念そうな顔をして言った。
「俺にも視えたらなぁ」
「……!……」
いつかこういうのが見えるようなアーティファクトを絶対に作ろう。
「とりあえず、光の強そうな物からいくつか拾っていきますね」
密かな決意を胸にそう言って、わたしはポイポイ収納袋に石を詰めた。
そして、ホールへと戻ったわたし達は、夕食の用意をはじめる。
「さて! 夕飯を食べたらしっかり休んで、明日に備えようか」
「はい!」
「藍華、俺は寝床の用意するから、ホールの真ん中辺りの大きめの岩がゴロゴロしてる所で食事の用意、しててもらっていいか?」
「了解です!」
大吉さんの指す方向には、腰掛けるのにちょうど良さそうな大きさの岩がと六個ほど見えた。ちょうど輪になるようにあるから、あの真ん中にテーブルでも置いてあったのだろうか。
真ん中まで来て辺りを見回すと、なんだか既視感を覚えた。
あ、そうか。プラネタリウムみたいなんだ、ここ。ライトを消したら星空に囲まれたみたいに感じるのかな。
ふと気になって視る力を使ってみると……
天井部分の淡い光を掻き消すくらいに輝く物が、足元に。
「……⁈……」
ハッキリと見えるその光は、かなり力の強いアーティファクトの証。
そして足元の土砂を手で掻き分けると出てきたのは……小さな小さなお皿とナイフ。
ミニチュアの食器……?
「大吉さん、こんなのがあったんですけど……」
手のひらに握り込めてしまうくらい小さなお皿とナイフ。それらを拾って大吉さんの方へ戻ると、ちょうど用意が終わったようで、わたしの手のひらの上のそれを覗き込んだ。
「これは……持ち運び用の食器だな。ミニサイズで場所いらず。使う時だけ通常サイズにできるタイプのアーティファクトだ」
「ということは、以前ここにきていた人達が持ってきた物で、あまりの小ささに落としたことに気づかず残していってしまった、ってことですかね」
その子達から出ている光が揺らいだ気がした。
「だろうな。
お前達……藍華がここにきてくれてよかったな。でなきゃまだ当分ここにいなきゃいけなかっただろう」
そう言って指先でちょんちょんと撫でてから自分の荷物から夕食分の食材を出す大吉さん。
わたしもそんな愛しげな視線で撫でてほし……
以下略
「じゃぁ、せっかくなんで綺麗にして。使わせてもらいましょうか」
言ってわたしが食事を取るための綺麗な布を取り出してお皿を磨いていると……
「──⁉︎──」
突然強く光り出しホール全体が照らし出された。
「どうした⁉︎」
あまりの眩しさに目を瞑ったわたしは、手にしていた小さなお皿が手から離れたことに一瞬気づかなかった。
ゴワンゴワンゴワンゴワンと大きな音を立てて何かが足元に転がる。そして目を開いて驚いた。
そこに転がるは巨大化したお皿。
「……発動したのか……?」
大吉さんも目を丸くしてその巨大化したお皿をながめて言った。
「いいえ。磨いてただけなんですけど…………っていうか。このお皿ってここまで大きくなるものなんですか……?」
「…………」
大吉さん曰く、ここまで大きくなるタイプのお皿ではないらしいとのことだった。
「何十年も放置されて、時々人は来るけど気づいてもらえず、色々……何か……溜まってたんでしょうかね」
アーティファクトにも、意思がある。そう考えると、あり得ないことではないかもしれないと思った。
「そうかもしれないな……」
そう呟くと、少し楽しそうに笑って大吉さんは続ける。
「俊快さんとあそこまで親密に話しなければな……ただの怪奇現象だと思ってたんだろうなぁ、俺…………」
アーティファクトの声を聞くことのできる仏師、俊快さん。またお会いすることはあるだろうか。何よりも彼のアーティファクトに対する優しさが心地よかったことを思い出す。
「どうやらこの子、わたしが触れたことで、わたしから力を引き出してるみたいですね」
お皿から、自分に伸びる光の筋がハッキリと一本見えた。
「大きさからすると、皿として使うっていうより、テーブルだな。お前、それでいいのか?」
大吉さんが巨大化した皿を手に取り言うと、お皿は嬉しそうに光を揺らがせた。
「良いみたいです」
わたしが苦笑しながら言うと、大吉さんは持っててくれと言ってお皿をわたしに渡した。
「椅子用の岩を三つ、皿の大きさに合わせて動かすから、乗せてくれるか?」
「了解です!」
そしてお皿は、岩の上に乗せられ満足そうに光っていた。




