310.謎石と偶然できた鑑定アーティファクト
採取したそれを見てみるけれど、わたしには何の変哲もないただの岩にしか見えなかった。
「白っぽいただの岩……ですよね……?」
大吉さんが掘り取ってくれたそれは、手のひらにスッポリ収まるくらいの大きさで、視る力を使ってみると、確かに光っている。
「取ってもらって気づいたんですけど、核みたいなのがあるようで、こちらのそれはビー玉サイズですね……」
手のひらの上でそれを転がしながらわたしは言った。
「藍華、鑑定アーティファクトは持ってきてるか?」
「一番精度の高いのは置いてきちゃいました……持ち運ぶには難しい形にしてしまったんで。簡易のやつなら持ってきてます」
そう言ってウォレットチェーンの先に付けた一つのアーティファクトを取り出す。
メガネ型と音符の金属パーツが入ったそれは。こういうものを作ったらどんな能力になるだろうかと、興味本位で作った一品だった。
入れたシトリンの細石が作用したのか、発動してみたらメガネが具現化してそれをかけると鑑定が可能なのだと判明して。
一応オールマイティに鑑定は可能だけれど、精度は高くなく、大雑把であることがわかっている。
「良さげなアーティファクトだな、見てみてくれるか?」
「了解です」
アーティファクトを発動すると、金属フレームのメガネが中空に現れた。それをかけて見てみると……岩の部分に、張り付いたように浮かび上がる文字が。
「……資材……だそうです……」
自分で読み上げておきながら、あまりの適当さに思わずわたしは吹き出してしまった。
「大吉さんのでもみてみます?」
「多分似たようなもんだと思うが……」
そう言って、見てみた結果。大吉さんの発動した鑑定アーティファクトで見えたという文字は。
『多分資材』
声を殺して笑うわたしに、大吉さんも笑いながら言う。
「な、大差ないだろ? まぁ、資材だというなら採取して帰ってみるか。もしうちで鑑定ができなかったら、辛子に見てもらっても良いだろう。マスター試験のことも聞きに行きたいし」
「そうですね」
この核の部分を削って研磨して、マクラメするのも良いな。
そんなことを考えながら会話をし、私たちはひとまず先に進んだ。
降下が終わり、先ほどよりも狭い岩棚に到着すると
「どうだ? さっきの“資材”ここにもあるか?」
大吉さんが興味津々に聞いてくる。
「あります。光の雰囲気は先程の変わらないですが──」
そう言って、そぉっと顔を崖下の方に向けて視ると──
うん、ぼんわり光るモノが見える。それは、間違いなくこの能力不明な岩の欠片と同じタイプ。
「下の方へ行くほどに強くなってる気がします」
「もっと下か……行った事がない訳ではないが、今はやめておこう。今回の目的は良質の花崗岩だから」
少し残念そうに言う大吉さん。
「じゃぁ、ここら辺を取って行きます?」
「いや、最奥のガレ場にもあるかもしれないから、先に進もう」
「ガレ場?」
初耳な単語に意味がわからずそのまま聞くと、
「大きめの岩がゴロゴロしている場所の事だ。そこからの方が採取しやすいし」
「なるほど了解です!」
そして、わたし達は岩棚を進んでいき、現れた大きな岩の裂け目の奥へ……奥へと進んで行った。
緩やかな上り坂になっているようで、地味に足にくる。
きっと、いや、絶対に大吉さん本来のペースではないだろうな……そう思ったわたしは、遅れないよう、転ばないよう、集中しながら着いてきたけれど、そろそろ限界かも……
洞窟に入って、随分経つのだろうかと時計を確認すると、時刻は十八時。予定通り、なんだろうか。
「今日はこの奥で一晩明かすんですよね?」
ランプの光はあれど暗闇に入ってから、時間の感覚が掴みにくく、あえてあまり気にしないようにしてきたけれど。時計を見たら余計に疲れが押し寄せてきた気がしていた。
「あぁ。強い岩盤の所でな」
「そこも……蓄光の星があります?」
「ここら辺よりは少なくなるが、あるぞ。寝る時はランプも消すし、楽しみだな」
大吉さんは普段と変わらない感じの話し方だけど、わたしは明らかに息が上がってしまっている。
「もうちょっとだから、頑張れ」
「──はい……!」
大吉さんからのエールに。足はガクガクだけど、気力は満タン。
そして程なくその場所に着いた。
「今日のキャンプ場所はここだ」
岩の裂け目の出口から出ると、ジャンプしても手が上に届かないくらいの高さがある、ドーム状の場所へと到着した。
「……広いですね……!」
「先人が採掘のために補強したスペースでな。大物が取れなくなってからは来る者も少なくなったが、昔はここを拠点にして採掘してたらしいぞ」
「それならきっと、安心ですね」
あたりを良く見回してみると、あちこちに何かが残っている。また来るつもりで残して行ったのだろうか、何脚かの折り畳みイスもあった。
「ここに荷物を置いて少し休憩したら、花崗岩の採掘にいこう。そんなに遠くはないから」
「了解です」




