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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
308/343

307.残念、似合うと思ったのに。

 絶対似合うと思ったのになー。


 大吉さんの額には、わたし製作の額飾りの一部が光り輝いている。


 残念かな、そのままつけてはもらえず、透明窓付きケースの中に入れられていた。

 そのケースを固定するのは、大吉さんの使い慣れている固定用ベルト。


 まぁ大吉さんが使い慣れてる物の方が良いだろう。あのチェーンではジャンプした時とか高いところから飛び降りた時、衝撃で外れてしまうし。


 こんなふうになる事をおおかた予想していたからか、あまりショックではなく。わたしは大吉さんの後を大人しく着いて行った。


 洞窟入り口からしばらくは緩やかな下り坂で、十数メートルくらい進んだ先で立ち止まる。


「ここから先は器材が必要だ」

「……すごい……深そうな崖ですね……」


 そこは、ライトの明かりが吸い込まれるように暗闇が広がっていて、とても深そうに見えた。


「俺は命綱付けて降りるが……」


 そこまで言うと大吉さんは、わたしの髪留めを見て聞いてきた。


「藍華はソレ、使うか?」


 大吉さんの言ったソレとは。髪留めのシュシュに擬態させているアーティファクト『棒人間の魔法陣』


「いえ、コレよりはこっちかな、と」


 そう言って、服の下につけている『空飛ぶ棒人間のペンダント』を取り出した。



挿絵(By みてみん)



「わかった、じゃぁ少しここで待っててくれ。休憩できる地点までついたら呼ぶから」


 そう言うなり、大吉さんはテキパキと命綱やら何やらを用意して、岩壁に何かを刺した。


 あれは……ロッククライミングとかで使われるハーケン……とか言うやつだったかしら。


「よし、じゃあ行くぞ」


 そう言うと、軽やかな動きで降下していった。

 ロープが岩肌を擦る音と、大吉さんの持つ荷物の揺れる音がどんどんと遠ざかり、時折新たなハーケンを打ち込む音が響く。


「大吉さんなら大丈夫だよね……」


 そう呟きながらヘッドライトの光を目で追った。


 一人その場に残り、改めて肌寒さを感じて身震いする。下に行ったらもっと冷えるのだろう、そう思ってわたしは腰につけていた上着を羽織っておく。

 そして、しばらくすると合図が来た。


『お待たせ藍華、広めの岩棚まで到着したから降りてきていいぞ。途中出っ張った岩があるから気をつけて、ゆっくり降りてこいよ?』


 耳元に、通信アーティファクトを通して聞こえる大吉さんの声。


「わかりました」


 内心ドキドキしながら、わたしはネックレスの力を発動する。

 何せ瓦礫はたくさん浮かせたけれど、自分を浮かせるというのは……あのこちらの世界にきた、マンホールから落ちた時以来。それに……こんな底が見えないようなところは初めてで……。


「ゆっくり行きます」


 ペンダントから発した光はわたしを包み、体を浮かせた。きゅっとペンダントトップを握りながら、底の見えない崖の方へと移動する。


 すると、下の方に大きな岩とその影から、大吉さんのライトの明かりが漏れて見えた。


 この暗い、大きな空間に。自分以外の人の明かりがある安心感。それが大吉さんだと思うと一層に……


 わたしは意を決して、そのままゆっくりと降りていく。


 何処からか吹いてくる風は冷たく、上着を着ておいて良かったと思った。大岩を避けると、そのずっと下の方に平らな部分が見えて、そこで大吉さんが手を振っている。


 込み上げてくる嬉しさをグッと抑え、同じ速度でわたしはそこまで降りていった。


「やっぱ早いな!」

「大吉さんが先に行ってくれていたんで、物凄い安心して降りてこれましたよ……!」


 自分一人ではとても難しそう……


 暗く見えない底に向かって行かなければならない、すると緊張で疲れは倍以上に感じるだろう。こうやって休憩できる場所が見つからなかったら? もし何かで元の場所に戻ることもできなくなってしまったら? そうなったら、とても平常心でいられる自信はない……。


「大吉さんはよくこんな暗い先の見えない所降りていけれますね……!」

「あぁ……まぁ慣れてるしな。ただ、久しぶりなんで、少しゆっくりめだ」


 大吉さんはそう言って苦笑する。


「少し休憩取ったら出発しよう」

「了解です!」


 岩壁にもたれてわたし達は座った。


「ライトは少し休ませて、これを使おう」


 使い古された、カンテラの形をしたアーティファクトを二人の間に置く。超シンプルで、こちらは元々電池式のよう。


「そうだ、よければもうちょっと詳しく聞いていいですか? 探す資材、石のこと」


 大吉さんの息が落ち着いているのを見て、聞いてみる。ここまでの道中では、いろんな動物に注意しなければならなかったりして、聞けてなかったのだ。

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