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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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302.食品系アーティファクト免許と特許

「食品系の免許……というと……?」

「食品系アーティファクトの免許のことだ。調理師免許を持ち、尚且つそれをアーティファクトという状態までもっていける者のみが取得できるという」


 なるほど、まず調理師免許が必要なのか……。


「そういえば。そもそもわたしの作った物ってお店じゃ出せないじゃないですか」


 調理師免許なんて持ってないのだから。


「特許というのがあってな、その問題も解決可能だ」


 大吉さんがそう答えると、フェイが何かに気づいたような、楽しそうな顔をして言う。


「なるほど! 特許か」


 一体全体どういう事なのか。特許てあの特許? いや、多分違う。

 訳がわからず困った顔をしていると、アグネスも同じだったようでつぶやいた。


「特許て、なんだ?」


 そんな、わたし達のようすを見て大吉さんは苦笑しながら言う。


「過去に“飲むと運気が上がる酒”というのがあって。その酒を作ってる酒蔵の関係者がそういう特別な免許を得たことがあるんだ」

「特定の者が関わった年の酒だけに、不思議な効果があると、杜氏が気づいたんだよな」


 フェイがそう言うと、大吉さんは頷いて続けた。


「その特定の者というのが、忙しい年や病気で来られなくなった者が出たりして、どうしてもな時手伝いに来てた人だったらしいんだ。

 そして不思議な効果に気づいた杜氏が、飲んだ者達の様子を事細かに書き記し、役所に提出した。政府と食品系アーティファクト協会は、杜氏がちゃんと監督することを必須条件として、その者が酒作りに関わる許可と、食品系アーティファクトとしての特許を出したんだ」

「フェイ……よく知ってたな、そんな話」


 アグネスが感心した表情でそう言うと、フェイは苦笑しながら答えた。


「小さい頃その酒蔵の近くに住んでたことがあるんだよ。子供ながらに大騒ぎになってたのを記憶してただけだよ」


 フェイは子供の頃からニホンにいたのかな。アグネスも名前も容姿も日本人ぽくはないから、どこか別の国から来たんだろうか。


「まぁ、そんなわけで、この一例から考えると藍華の作った琥珀糖にも、許可が下りる可能性は高い。

 本来は、判明した時点で報告、そこから会議にかけられ、試す為の日時、人材等が決められる。が、今回はただの差し入れとして作った物が、ソウだったという超特殊ケース。

 しかもそのレポートが警察署員からも提出される。結構な人数だし署長までとなると、その事実をもみ消す事は不可能だろう」

「……でもそれだと、尚の事政府が欲しがるんじゃないか? 警察からもお墨付きな効果の物なんて」


 アグネスの質問に、大吉さんは話しながらいれていたお茶の片方をわたしに渡すと、自分もそれを一口飲み答えた。


「それは……99%ない。食品系アーティファクトはそもそもキョウトにしか職人がおらず、今ではその全ての職人がお抱えなんだが。専門の機関や職人の元で数年間の修行が必要でな。外部の人間がいきなりなれるものでもないんだ」

「職人になるのがそれだけ難しいって事ですか?」


 わたしの質問に、大吉さんは少し悲しそうな顔をした。


「それもそうだとは思うが……現状のように職人が減ってしまったのは、俺は別のところにあると思ってる」

「それと藍華が狙われない理由がどう繋がるのか全く持って想像がつかないんだけど」


 アグネスの言葉に大吉さんは苦笑した。


「簡単に説明すると、食品アーティファクト協会も一枚岩ではない、ということだ。

 十年くらい前だったなら、特別な召喚状が届いただろうな。その技術を秘匿、独占するために。だが、数年前から上の方の動きが変わったらしいんだ」

「絶滅危惧種になったんで、重い腰をようやくあげたってとこか?」

「絶滅危惧種」

「はっはっは! フェイの言う通りだ」


 フェイのセリフに突っ込むようにアグネスが復唱し、大吉さんが笑いながら言った。


「今や研究所の方にも依頼が来ていて、優先案件として扱われているそうだ」


 正式に研究が始まったのなら、もうそこまで厳重に秘匿されているわけではないということか。


「研究の内容はもちろん外部に漏れないよう扱われているが、な。

 そんなわけで、拘束されるような召し抱えには来ない。来るとしたら、研究所からだな」

「なるほど。研究所からだったら、田次郎さん通じてなんとかできそうですもんね」


 わたしの言葉に大吉さんは苦笑した。


「そういうこと」

「しかし……そんな状態になるまでなんで動かなかったんだ? 政府は。諸外国では、盛んに研究もなされているらしいし、割と一般的なものらしいと聞いたことがあるが。ニホンには必要ないって判断したのか?」


 そうアグネスが呟いた。


「問題は政府だけではないよ、職人達もだ……。

 昔、田次郎さんとその話題になった時、報告書も見せてもらったんだが。

 政府は製法技術の保全に乗り出していたようだ」


 少し重い口調の大吉さんは、一息つくと話を続けた。


「まぁ人の書いた報告書なんでな。そこにどんなやり取りが実際にあったのか詳細には書かれていなかったし、わからないが……。

 報告書から読み取れたのは、政府は保全に乗り出したが、職人がそれを拒否したということ。

 保全の提案として提示された内容は、キョウト以外にも専門の施設を各地に作り、伝承していくことだったそうだが、職人側がそれを拒否した。

 主な理由は副作用等の問題が各地に広がらないようにするため……」

「それはなんだか……少し古い感覚だな」


 フェイが真剣なかおをしてそう呟いた。


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