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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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301.イイ笑顔

 蓮堂さんは、大吉さんから受け取った大ジョッキ、氷入りの水を一口飲んで、事のあらましを話してくれた。


 蓮堂さんが、今日の仕事を一応終えて申し送り書を書くためデスクに戻ってきた時、隣の席の同僚にそれはなんだと聞かれて差し入れもらったことを思い出し。

 蓋を開けたところ、中を見た同僚さんがそれを甘味だと判断し、もらってもいいか、と聞いてきて。


 蓮堂さんは、一人で食べるには多いしと。数個だけ残してくれれば、あとは食べていいぞと言って同僚にそれを渡したそうだ。


「すると、缶の蓋に三粒残して俺のデスクに置くと、甘味好きな奴らのとこに持ってったんだ。そいつらも仕事終えて、退署直前の連中だったんだが──」

「それを食べたら様子が変わったと?」

「そう。突然今日の臨時夜勤に候補しだしたんだ」


 ……どれくらい効果が持続するんだろうか。コレ。


 自分が作ったモノながら、その予測もつかない効果に、遠い目をしてしまうわたし。


「んで、なんの騒ぎだと様子を見に来た署長が、お前のデスクに残ってたそれを食べたと」

「そうだ。俺の許可もなく全部食べやがったあの署長(おっさん)


 だから俺は食ってないんだと憤慨しながら言って、喜光さんはようやく一息ついた。


 いやぁ……それ、食べなくて良かったんじゃ……。


「まだ……効果がどれくらい持続するかわからないんだが、それは藍華の作った琥珀糖でな。おそらくだが、キョウトの老舗で手に入るモノと同等の力を持つ、食品系アーティファクトだ」

「なんだと⁉︎ 政府の官僚ですら手に入れるのが難しいという、あの……⁉︎」

「あぁ」


 政府の官僚も手に入れにくい。


「俺も見たことはあるが、実際に食べたことはなくてな。聞く話によると、食べた量により効果の持続時間は変わるはずだ。あまり食べすぎな奴がいない事を祈るが……」

「奪い合いになってたからな……。おそらく一人二粒食べれたなら多い方だろう」


 じゃぁ、署長さんが一番たくさん食べて……。というか、そういえば喜光さんたちはどれくらい食べたんだろうか。


 どちらの差し入れも、同じくらいの量を入れたわたしは、ふとその事が気になった。


「出来ることなら俺も食べてみたいが……署長があの調子だと後々大変そうだからな……今はやめておくか……」


 そう言って、残念そうな視線を小皿の上の一粒に送る蓮堂さん。


「藍華、残りはどれくらいあるんだ?」

「えっと……まだコレだけありますけど……」


 言って、わたしは缶の蓋を開けて大吉さんに見せる。琥珀糖は、缶に半分くらい残っていた。


「蓮堂、製作者の情報はもちろん秘匿に出来るな?」

「もちろんだ」

「よし、じゃぁこの残りから半分渡す代わりに、署長と他の署員にもレポートを頼んで良いか?」


 大吉さんはニヤリと笑ってそう言った。


「……もしここで販売が可能になったら、優先的に回してもらえるんだろうな?」

「可能な限り、な」


 大吉さんが拳を差し出すと、蓮堂さんも拳を出して、軽く打ち合わせる。


 話は決定かな、と。わたしは持ち帰り用のケースを用意して移し始めた。


「で、署に戻るのか?」

「署長が何かやらかす前に、な」


 残りの水を飲み干し、大きなため息をつく蓮堂さん。


「夜勤予定だった者の中から希望者が出た人数だけ、立候補者と交代したんだが、効果が切れても問題が起きないように、バックアップもしてやらないとだし」

「追加摂取を止めはしないが……そいつら、明日は休めるようにしてやってくれよ?」

「もちろんだ。署長のハンコ使って有休扱いにしてやる」


 悪そうな顔をしてそう言うと、蓮堂さんは琥珀糖の入ったケースを受け取り、署へと戻って行った。


「なんだか大変なことになっちゃってますけど……大丈夫ですかね……?」

「キョウトのと同じくらいの効果なら、一晩は保たないはずだ。大体三時間でその効果はなくなり、立候補して夜勤にあたってる者は疲労と眠気で限界が来る」

「めちゃくちゃヤバいじゃないですか……!」

「そうだな……。通常の健康な警官なら、一晩、三回程度に分けて摂取するくらいは大丈夫だろう。摂取限度は越さないはずだ。あとは……警官達の体力を信じるしかないな」


 栄養ドリンクよりは害が少ないのだろうか。あれは一晩に三本も飲んだらマズイだろうし。


「しかし……知れ渡ったら、大変な事になりそうだな」

「もしかして、藍華、召し抱えられちゃったりして。政府に」


 ドキン


「それは多分大丈夫だ。藍華はまだ免許持ちじゃないから、あちらの強制力はそうそうは届かない」

「免許も持ってないのに作ったことが問題、とはならないんですか……?」

「その能力のことを知って、わかっていて、作って売ったなら問題だが、今回のは大丈夫だ試作も試作、初めて作った物だからな。

 あと売ってはいない、ただの差し入れだ」


 そうにこやかな笑顔で言う。


「そうそう。私達も買ったんじゃないしな」


 アグネスもそう言ってニカっと笑う。


「そうですか……」


 二人のその様子に、わたしは苦笑するしかなく。


「それに、免許も持っていない者が作ってるってとこもポイントかな。一般人にそんな物が作れるはずもない、と政府の者も関係者も考えているから。

 子供が親に手作りの物をプレゼントしたら、それがアーティファクトになっていた、という一例と変わりないだろう」


 なるほど……。


「じゃぁ……免許試験、まだ受けに行かない方が良いですかね?」


 しょんぼりそう言うと、大吉さんはぽんぽんとわたしの頭を撫でて言う。


「それも大丈夫だ。本来食品系の免許は別に取らないといけないから、そこまで取らなければ良いだけの話だ」


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