002. どこにでも居るんだ、悪い人
道ゆく人々は自分の知っている服装ではなかった。
どちらかというと中世ヨーロッパな雰囲気と和の混ざったような……。丈の短い着物の下にズボンを履いていたり、着物を帯ではなく、ベルトやコルセットベルトのようなもので止めていたり、と。古いタイプだけれど、ある意味新しい服装だった。
ここは……どこ…………?
「おーじょうちゃん、大丈夫かぁ? その穴に落っこちたんかい?」
マンホール横でへたりこんで座っている私の所に、親切そうな頭の7割ほどが輝かしい、甚平を着たおじさんが近寄ってきて声をかけてくれる。
言われてはじめて体の具合を感じてみるが、とりあえず怪我はないみたいだ。体はまだ震えてるけど。
「……はい大丈夫です」
よろよろとしながらリュックサックを背負ったまま立ち上がると、突然三人のガラの悪そうな男たちに囲まれた。おじさんと共に。
「そこのポニーテールのおねーちゃん、可愛いねー! 俺らと一緒においでヨ!」
は⁈ 可愛い⁇ どこの何をみて?
化粧っ気のない顔。つけてるものはリップぐらい。特にいじる気もない長めの髪の毛は自分が一番動きやすいと思うポニーテールに三つ編みでまとめてある。
服装に至っては、ジーパンにTシャツ、日焼け防止の上着を引っ掛けてるくらい。
自分で言うのもなんだけど、地味一直線なこの顔と服装のどこをみて可愛いと……?
「楽しいところに連れて行ってあげるからさー!」
怪訝な顔をしながら話している男を見ると、思わず目がいってしまう装備品。
一人は長髪無精髭に顔に似合わぬ乙女系ロングネックレス。
一人は長髪を後ろで一つに束ねこちらはまぁ雰囲気に似合った感じのパンク系のブレスレット。
もう一人は短髪にシンプルなシルバー系ブレードトップのついた革紐ネックレス。
「おっさん邪魔ー。どけよ!!」
短髪の男がおじさんを突き飛ばし、わたしの手を掴んだ。
「え、ちょっと」
あっというまに取り囲まれズンズンと道を進んで路地裏に連れていかれる。
「やめてください‼」
周りにいる人たちは気にはしてみてくれるものの、ヒソヒソと話し合うだけで何も言ってくる気配はなかった。
まぁ、かくいう自分もバックにある景色やその他諸々が気になりすぎて唖然としてしまっていたが。
緑に囲まれたビルらしき物が見えたり、地面が質の悪そうな石畳だったり、街灯は街灯としてではなく何やら垂れ幕がかかっていたり。
「やめてくださいって‼」
行き止まりとなっている所まで来て、手を引っ張る力が強くなったと思ったら突然離され。よろけてしまうが、背中のリュックには衝撃で壊れてしまうかもしれない繊細なパーツも入っているので根性で持ち直す。
落下時の震えはだいぶ収まってきた。けれど、逃げるにしてもこいつらを振り切れるほどの速度はだせまい。
「さぁ、まずその重そうな荷物は預かろうか」
パンク系ブレスの男がそう言ってリュックのベルトに手をかけたその時、全力で払い除けようと手を思い切りふった。
女の力で敵うと思うほど、男の力を甘く見てはいなかったので。全力で。
ところが。
どごっっ!
という音と共に男は横の壁に叩きつけられていた。
「……へ……?」
しばし呆然とする。
自分の指にはまっている棒人間の模様入りの指輪が淡く輝いていることに気づいたのはその少しあとだった。
挿絵、ハンドメイド作品写真をアプリで加工。




