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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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297. 金色のコイン

 この世界にも孤児のための施設がある。考えなかったわけではないけれど、特に自分から知ろうとはしなかった、その事実。


 孤児院があるなら、その経営を支えるためのシステムや集金のためにも何かあるはず。寄付とか何か……わたしが力になれるとしたらそこらへんからだろうか――


 例え……偽善と思われ、言われたとしても、何かがしたい。せめて色々な物から目を逸らさずに生きていきたい。

 そういう気持ちが自分の中にあることに気づいた。


 自分を取り巻く環境が違うからか、あちらでは気づかなかったことに気づけるのかな……。

 わたしはそういうこともしたかったんだなぁ……。


 しみじみとそんな事を考えながらふと見上げると、大吉さんがなんともいえない顔をしてこちらを見ていることに気がついた。

 やっぱり少し衝撃的な情報だったかしら。自分的には大したことではないのだけれど……


 優しい大吉さんに“気にしないで”と言ったら余計に気にしそうだと感じたので、せめて“自分は気にもかけていないんだ”という雰囲気で笑顔を作り、わたしは言った。


「さ。帰りましょう! 早くお店開けないと」


 アグネス達がきちゃう。そう続けようとした時、小さな金色のコインのようなものが足元に転がっているのに気がついた。


「コレは……?」


 拾って表裏を見てみるけれど……数字は入っておらず、そこに刻まれた模様にも覚えはなかった。


「見たことのないコインだな……。外国の硬貨か……?」


 大吉さんも見たことのない物なんだ。一体なんなんだろう……?


「ちょっと待てよ……」

「どうかしましたか?」

「さっき、アイツに投げて渡したカード」


 カードだったんだ。さっきのアレ。


「アレにそれとちょうど同じくらいの大きさの窪みがあった気がする……」

「どんなカードだったんですか?」

「何やら洋風な絵柄の、分厚いカードのような物だったんだが……太陽を背に剣を持つ天使のような絵が描かれていたんだが、その太陽の部分がちょうどそれくらいの窪みになってた」


 口元に左手を持ってきて、目を瞑りながらそう言う大吉さん。


 そういえば、大吉さんが投げたそれを受け取った時、タロー君は少し驚いた顔をしていたような気がしなくも……


「とりあえずわたしが持っていても良いですかね?」


 もう一度、あの子達に会ってみたい。会えるものなら──


 そう思うのは、自分と似たような境遇の子達への憐れみの気持ちからかもしれない。

 それは……あまり良くない事だとは思うけれど──


「……一人でここには……」

「来ませんよ。特に遅い時間には。例の事件も解決してないんですし……」


 わたしはそのコインをポケットに押し込んで一歩先に出て言う。


「行きましょう! 早くしないとアグネス達が来ちゃいますよ!」



 ◇◆


 喫茶店へと戻ったわたし達は、予定通り店を開け、しばらくすると、仕事帰りの常連さん達で店はいっぱいになった。

 来てくれた方々に、明日から二、三日、資材調達の為店が閉まる事を伝えつつ、忙しい時間はどんどん過ぎていく。


 ラッシュの時間が過ぎ、店内が空になると、大吉さんが食器を洗いながら言った。


「藍華、今日は開けるのが遅かったから少し遅めの閉店にしようと思うが大丈夫か?」

「はい、もちろんです。あ、でも出発の用意のために少し抜けても良いですか? というか、どんな場所で、どんなものが必要ですかね?」

「場所は……運が良ければ地上で見つけることができるだろうが、ずいぶん昔に乱獲されたから難しい。地下に潜ることになるから、それに適した物があると良いんだが。

 とりあえずはキョウト行った時みたいな装備で大丈夫だ。あと手放しで点けれるライトがあるとなお良い」

「了解です!」


 着替えを一着は持とう。

 わたしは、そう心の中で持ち物を加えた。


「じゃぁ、今行ってくるといい。ちょうど客も途切れたし」

「ありがとうございます」


 拭いていた皿を棚にしまい、わたしは準備をしに上の階へ。


 なんだか。二人きりというワードばかりが先立って、感覚が追いつかない……。今だって店に二人きり。夜だって、空き部屋挟んで入るものの二人きり。それでも普通に過ごせてるから、発掘に行って二人きりも、今と似たようなものなのだろう……か……?


 などと色々考えながら、わたしは荷物をまとめた。そしてある物の事を思い出しつぶやく。


「そういえば、クゥさんの“あの袋”、今回使うのかな……?」


 アレがあったらソレもコレも、色々というか全部持って行けてしまうのでは。

 袋は今、大吉さんが保管しているから、あとで聞いてみよう。


 ひとまず荷物を厳選し、小さなリュックとウェストポーチに詰めこんだわたしは、早く戻って店の手伝いをしようと階段を駆け下りた。


 するとちょうど軽快なドアベルの音が鳴り──


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