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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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294. 妖精の住処

「そういえばお前、なんで遅れて来たんだ?」


 そうだ、視線の主の追跡は……


「これの報告に来る以外に何か急ぎの用事でもあったのか?」


 息が整ったならお前書け、と言わんばかりに黒いバインダーボードとペンを大吉さんに渡す蓮堂さん。


「ここんところ、ちょっと気になる視線を感じててな。追ってみたんだが……逃げられた」

「気になる視線?」

「あぁ。なーんか、キョウトから帰った日から時々感じててな……」


 あの時と今日と、それ以外の時にも感じていたんだろうか、その視線。


「危険な感じなのか?」

「いいや、敵意はない。ただこう何日も続くとなぁ……なんとも気持ち悪くて。調査されてるみたいでムズムズする」


 調査……


「そうか──……そうなると大吉一人で資材の調達に行くのは心配だな……」


 蓮堂さんの呟きに、わたしはすかさず口を挟んだ。


「あの……その資材調達、わたしも付いて行ったらダメですか……?」


 お店をまた閉めないといけなくなっちゃうけど、一人残るよりは良いかと思って聞いてみた。


「ダメというか……かなりキツイ道のりだぞ……? 数年前大吉と一緒に行ったことがあるが、オレでも大変」

「行くか。一緒に」


 大吉さんが蓮堂さんの言葉を遮り言った。


「藍華なら大丈夫だろう。アーティファクトを駆使していけば」


 自分から提案しておいてなんだったが。コレはやばい。

 遺跡やら森やらで周りに誰もいないような所での二人きりだ。


「逆に、ついていってもらった方が助かる部分もあるかもしれんし」


 そんな場面、あるのだろうか。まぁ未使用アーティファクトの光を見る能力で、発掘しきれていない物を見つけることはできるかもしれないけれど……。


「そうだと良いんですけど……足手纏いにならないよう頑張ります」


 ◇◆


 それから、書類に記入を終えたわたし達は。差し入れを蓮堂さんに渡し、舞子さんの元へと向かった。


「おぉお、ここが大人の喫茶店街……」

「舞子の店はこっちの方な」


 日はまだ高く、人はまばらで。大吉さんがこっちの方だと言って連れて行ってくれた通りの入り口には警官の姿があり、その先は高級そうな出立ちの店が並んでいた。


「この通りの建物はすごく綺麗に……なってるんですね?」

「骨組みはそのまま使ってるところもあるはずだがな」


 基本はレンガ調らしく、ヨーロッパな雰囲気。それぞれの店の入り口上部には看板がぶら下がっていて、道の端に設置されているランプがついたさぞかし良い雰囲気になるのだろうなと、想像がつく。


「……場所覚えても、絶対に一人で来るなよ……? 特に夕方以降は」


 付近を眺めているわたしが何を考えていたのかわかったのだろう。シッカリとクギを刺してくる大吉さん。


「わかってますよ。少なくとも事件が解決するまでは一人で来ません」


 極力。と心の中で付け加えた。


 しばらく行き大吉さんが歩を止めたのは、レンガ調を上手く取り入れ、葉と木で覆われたような飾りが施されている店の前だった。


「ここだ」


 そう言って、大吉さんが木製の扉横にあるクリスタルランプの下にぶら下がる紐を引っ張ると、店内の方でベルが鳴っている音が微かに聞こえた。


 中から舞子さんの「はーい」と言う声が聞こえ、しばらくすると、扉が開いた。


「あら、あなたたちだったの」


 舞子さんはいつもと違い、ダブッとした大きめのシャツに、これまた大きめのズボンを履いている。


「仕上がったのでお届けにきました!」


 違うのは服だけで、顔はいつもと同じように美しく。お化粧もバッチリで、服とのギャップが少しあったけれど、これだけ美人だと何着ても似合うんだなぁ、としみじみ思った。


「思ってたより早かったわね、どうぞ中に入って」


 店内へと通された。


 中に入ると、わたしはその雰囲気にとても驚いた。


 コンセプトは“森の中”なんだろうか。木のテーブルに木の椅子、高級感があると言うよりは、山小屋の素朴な雰囲気があって、落ち着く感じがそこにはあった。鳥の声までしているし。何やら空気までが森の中かのような──


「準備中の時間に悪いな、できるだけ早く渡したいと二人で相談したんで、持ってきたよ」

「全然大丈夫よ、何か飲んでいく?」

「いや、うちも店を開けないといけないから、すぐ行くよ」


 キョロキョロしどおしのわたしを見て、舞子さんが言った。


「どお? 素敵でしょう? 今月のコンセプトは“妖精の住処”なのよ」

「これは……何か仕掛けがあるんですか? 入った瞬間にまるで別の空間に来たみたいで……」


 “空気が変わった”

 これ以上ピッタリな言葉はないだろう。


「空間系アーティファクト“妖精の住む森、山小屋バージョン”の力よ。今度ゆっくり見にいらっしゃい」

「ぜひぃ……!」


 今見せてもらいたい気持ちを必死に抑え、わたしはカバンから小さな箱を取り出した。

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