291. 新しいタイプの壁ドン、もとい、壁サンド(⁉︎)
「どうだ? 斎士郎」
「喜光さん、これは確実に人為的なモノですね。方法は今のところ不明ですが。修復は、元あった物を戻すだけで大丈夫です」
斎士郎さんは、立ち上がりそう答えた。
「どこからそう判断するんだ?」
大吉さんの質問に、斎士郎さんは「こちらにきてください」とわたし達をさらに奥の開けた場所へと連れていく。
「そちらです」
瓦礫の避けられたそこは、平らな地面がのぞき、土壁にはくっきり地層のようなものが綺麗に見えていた。
「大吉、そこの大きな瓦礫の横に置いてくれるか?」
「了解」
大吉さんがポットを置いた横に、わたしも持ってきた琥珀糖を入れた缶を置く。そしてもう一度露わになった地層を見ながらつぶやいた。
「すごく綺麗な地層ですね」
元いた世界の、東京の地下にもこんな綺麗な地層があるんだろうか。
「そう、その地層を見てください。見事に持ってかれてます、何かの力で。自然にできた物なら、もっと凸凹してるはずなんですよ」
確かに、その断面は綺麗で。鋭い刃物で切ったのかという感じを受ける。
「警察には?」
「さっき見つけたばかりなので。今日の作業終わりにでも報告に行きます」
「知り合いに警察がいるし、ここの帰りにちょうど寄るつもりだから、話しておくよ」
喜光さんと斎士郎さんの会話に大吉さんが割り込んだ。
「いいんですか?」
「少しでも余分な作業の時間は少ない方が良いだろう? 可能なら今日の仕事が終わるくらいの時間に来るように頼んでおくから、終了後少し調査に付き合ってやってくれ」
「助かります。仕事終わってから署に出向いたんでは間に合わないと思ってたんで」
大吉さん達はそんな話をしている間、わたしは地層にへばりついて、あまりの綺麗さに撫で回していた。
地層の綺麗な線を追って行くと、何かが気になって地層に顔をくっつけて瓦礫の隙間をじっと見つめる。
「藍華、瓦礫には触れないようにしろよ?」
「はいー」
やっぱり、何かがぼんやり光っている……?
アーティファクトの光と似ているけれど、少し違う気がする。
「大吉さん、そこに何か気になる物があるんですけど」
「気になる物?」
「はい、拳大のなんですけど……」
壁に顔をくっつけたまま、瓦礫の隙間を見ていると──
「ちょっと良いか」
はい、と言う間もなく大吉さんはわたしの左肩のすぐ上に辺りの壁に手をついた。そして同じように隙間を覗こうとするがため、わたしは軽く壁に押し付けられた。
新しいタイプの壁ドン……? というより壁サンド…………。
突然の接近過ぎに、心臓がやかましく鼓動をうつ。
「…………」
「どこだ?」
わたしはなんとか心を無にした状態で受け応える。
「……そこです、でも多分もうちょっと奥の方……」
心臓よ、耐えて。ここで倒れるわけにはいかない。
わたしが穴の場所を指差すと、大吉さんは瓦礫の隙間からその先へと手を伸ばし、まさぐる。そしてしばらくすると、大吉さんは驚愕の声をあげた。
「これは……!」
「どうした、大吉?」
「喜光、この部分の瓦礫を退けれるか?」
「何か見つけたんだな、二人ともそこから離れてくれるか? 斎士郎、サポートを頼む」
「了解です」
斎士郎さんが返事をし。わたし達は喜光さんの後ろへと下がった。
斎士郎さんが鑑定タイプのアーティファクトで動かせる瓦礫を特定し、喜光さんが蔦のアーティファクトで瓦礫を順に動かし、空いている場所へどんどん陳列していった。
ソレが露わになると、異様だということはすぐにわかった。
わたしの見つけたソレはツルツルとした黒い円形の何かだった。大吉さんは何かルーペの様なアーティファクト、おそらくそれも鑑定系の物で、それを調べて言った。
「現場検証系の鑑定アーティファクトがあればもっとハッキリとわかるだろうが……多分間違いない。これはある特定の種のアーティファクトを使用した跡だ」
「そうなのか⁉︎」
大吉さんは神妙な顔をして頷く。
「鉱物の採取時に使われる掘削アーティファクトっていうのがあってな、目的の鉱物がある地点までを狙って土を除去するタイプの物があるんだが、特殊なアーティファクトを使って目的の地点に目印を設置しないといけないんだ。
コレはその目印である球体の半分だ。おそらく十メートルおきくらいに同じ物があるはず──」




