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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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289. 負傷者の話と外付けパーツの可能性

「負傷者って……」


 大吉さんの驚き具合からもわかる。滅多にあることではないのだと──


「負傷者は二人。一命は取り留めて、二、三日入院だそうよ」


 わたしの知る限り、この世界、この時代のアーティファクト医療は完治までが早い。だから二、三日も経過観察しなければならない状態は、かなりレアなケースなはず……


「警官に負傷者が出るなんて……大変なことですよね……」

「蓮堂もまた署に缶詰になりそうだな……」


 舞子さんは「そうね……」と呟きながら椅子に座り、ため息をつく。


 警官に負傷者が出るような事態が起きたという事実に、わたしは“早くしなければ”と思い大吉さんを見る。すると大吉さんはわたしの意図を察したのか、目配せをしてから頷いた。


「舞子さん、ご相談があるんですが……」


 こんな物では根本の解決にはならないとわかっているけれど。少しでも彼女が動きやすくなるように……


「なぁに?」

「予備、ありますよね? それの」


 わたしは舞子さんのトレードマークとも呼べる星形のヘアピンアーティファクトを指して言った。


「もちろんあるけど……どうして?」


 突然何をと、訝しげな顔をする舞子さん。


「お借りできますか? 試して見たいことがあるんです」


 わたしは外付けアーティファクト計画の事を舞子さんに話した。


「そんな事が可能なの?」

「実験は成功してる。既存のではなく、レプリカランプを使用して、だが」


 そういうと、大吉さんは未だ輝くランプアーティファクトを取り出して見せる。


「まぶしっ!!」

「本体はランプ、ここについてるのが外付けパーツだ」

「外付けの方はわたしが作りました」


 舞子さんは薄目を開けてランプアーティファクトを確認した。


「これ、光量は抑えられないの?」

「今、最大光量でどれくらい保つか実験中なんだが……」

「やってみましょうか、一瞬だけでも。起動したあと、変更が可能か、それは起動者以外でもできるのかが気になります」


 興味のわいたわたしは迷わず手を伸ばした。


「そういうことなら」


 大吉さんからランプを受け取ると、わたしはすぐさま念じてみる。


 光量を最小に──


 すると光は揺らぎ、しゅんっとその光量が抑えられた。


「可能のようですね」

「そのようだな」


 まだ試してみないといけないことはたくさんあるけれど、割と使い勝手の良さそうなそのアーティファクトに、次は人感センサーをつけてみようと心に決める。


「タイマーで付き、電池の保つ限り持続するアーティファクト、か……面白いわね!」


 舞子さんも、ランプを見て何かを思いついたようで。お店のショーでどうのこうのと呟きつつ、目を輝かせていた。


「で、この電池式にする物を、私のヘアピンに付けてみたいと?」

「はい。そうすればお姿はそのまま、別のアーティファクトを使うこともできるようになるので。

 候補としては、身を守る方のアーティファクトを自動で発動するタイプの物も考えているんですけど──」


 身を守るタイプの物は自分のためにも作る予定なので、頼まれなくても作ってお渡しするつもり。けれど、時間と資材的にも一度に作ることは出来なさそうで、どちらか選んでもらおうと、わたしは聞いた。


「やらせてもらえませんか?」


 貴女を守りたい。そう、瞳に意思を込めて舞子さんを見る。


「…………」


 舞子さんは、しばらくわたしを真剣な表情で見つめると、しょうがないわねという感じに顔を緩ませて言った。


「オッケーよ。ヘアピンの方で頼むわ」

「ありがとうございます‼︎」

「コレは、あまり力を必要としない物ではあるんだけど。それでも日に何度も起動するのは骨が折れるのよね。かといって、この姿じゃなきゃあまり外には出たくないし。コレが電池式になるなら、そんなありがたいことはないわ!」


 舞子さんに快く了承を得られて嬉しいけれど、責任も重大だ。


「電池の切れるタイミングがわかるようにしようと思いますが、何分間くらい猶予が欲しいです?」


 変身が解ける数分前にはわかった方が良いだろう、そう思って聞くと


「「そんな設定まで組み込めるの(か)⁉︎」」


 見事にハモる二人。


「は……はい、多分ですけど。その代わり、この機能は組み込んでしまうので、後から変更が不可になりますが……」


 その後、簡単な案の説明をしていたら時間はどんどん過ぎていき。昼の混み出す時間が来て、数組のお客様が来たタイミングで舞子さんは帰っていった。


「たとえお客様が来なくても、うちも開くわお店!」


 と、気合を入れつつ。


 予備のヘアピンは後で届けてくれる、ということで。わたしはそれを待って作業を開始することに。


「早く解決すると良いですね……事件」

「そうだな──」


 注文のあった料理を用意しながら、大吉さんは少し神妙な顔をして答える。


「藍華……明後日、修復見学行く日。帰りにちょっと署に寄っていいか……?」


 蓮堂さんを心配してだろう提案に、そんな優しい大吉さんのことがやっぱり──


「もちろんです。蓮堂さんにも差し入れ持っていきましょ!」


 わたしは笑顔でサラダ用レタスをちぎりながらそう答えた。


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