288. タイマー付きランプ
お店に置いてあるレプリカランプは、どれもシンプルな物だったので、同じような物を用意してくれると思っていたのだが。
大吉さんが用意してくれたランプは、ワイヤーで作られた蔦が中央水晶を守るかのようにプラスされて、これまたいい感じになっている。
「藍華と話をしていると、俺も影響されるみたいでな。ちょっと自分の色ってやつを考えてみたんだが……。
結局よくわからなくて、神器リスト集の中から自分にできそうなパーツを流用してみたんだ」
「神器‼︎……リスト集……」
グイグイ行きそうになる自分を必死に抑え、出来るだけ小さな声で呟くと、
「……あとで貸すよ」
しっかり聞き取っていた大吉さんは、肩を振るわせながらそう言ってくれた。
「……ありがとうございます……」
「以前の自分だったなら、ワイヤー部分は無しだったな。シンプルにレプリカ本体と繋ぎ用の水晶を接着するだけにしていただろう」
「とても素敵だと思います……」
素直に感想を述べると、大吉さんは照れたように笑い、言う。
「ワイヤーがどういう効果をもたらすかは起動してみないとわからないし、冒険なんだが……まぁ、爆発はしないだろう。
生活必需品として作る“レプリカ”とは少し違った感覚で、楽しかったよ」
「そう……ですか…………」
自分に影響されて、新しいことを試みようとしてくれている大吉さんを見て、わたしはくすぐったいような嬉しさに包まれる。
「では、わたしの作ったパーツを」
嬉しい気持ちを大事に胸にしまい、わたしは木の小箱から昨晩作ったパーツを取り出した。
夜空のように輝く背景、右上には金色の文字盤が浮かび、左下にはワイヤーで巻いた水晶の欠片。取り付けやすいようにカボションベースに接着する形で作ったそれ。
取り付けやすいよう小さく作るのに、封入パーツをレプリカ技術で用意したりと、少し時間がかかったけれど。なんにせよ作ることが大好きな自分には、苦ではなかった。
「よく……こんな小さく作れたな……」
「一番大変だったのは文字盤の部分だったんですけど、まだバランスがいまいちな気がするんですよね……。でも、これでまた創作の幅が広がったので楽しみが増えました」
わたしがそう言うと、大吉さんはそれを興味津々に観察しながら言う。
「また今度、それのやり方を教えてくれるか?」
「もちろんです!」
わたしは笑顔で答えた。
「ちなみに、これだけでも時計アーティファクトとして起動します。難点は小さくしすぎで文字盤も小さくなっちゃったとこですかね」
手のひらに乗せ起動させてみると、数センチ上の中空に、直径二センチくらいの文字盤が現在の時間を指した状態で現れる。
「ちっさ!」
「でしょうー?」
二人して笑いながら文字盤を見た。
「電池ギミックも入ってるのでもちろん手放しで数時間は保ちます」
「電池の使用回数と持続時間の設定はどんな感じだ?」
「回数は百に設定しました。それで少なくとも三時間は保ってましたけど 」
朝、自室にて起動させておいて、数回覗きに行き確認したので、間違いはない。
「百⁉︎ それで三時間も保つのか。すごいな」
「問題は、繋げた時に上手く起動してくれるかと、起動した場合の持続時間ですね」
「とにかくやってみよう。どっちに付けてみる?」
「そうですね……」
ちゃんと後付けできるように考えて作ってくれているけれど、わたしは大吉さんが作った作品の、空間をそのままにしたいと思った。
「まずは持ち手の方に」
「了解」
大吉さんは、慣れた手付きで持ち手にメガネ留めでソレを付ける。
「よし。どうだ、何かわかりそうか?」
わたしは一度眼を閉じ、自分の中の扉を一つ開けるようイメージをする。視るための力の扉を。
そっと眼を開け視ると、ソレは淡い光に包まれて見えた。アーティファクト特有の力ある証拠の光。
「光が二つ共になっているように見えます」
「よし、じゃあ起動させてみるか」
わたしはすぐさま視る力を一度閉じ、目と感覚を休ませた。
「一分後、ライトオン。明るさは最大で、電池の保つ限り」
大吉さんがそう言いランプアーティファクトを起動させた。
すると一瞬ランプ全体が、起動時のように強く光るが、すぐに元の状態に戻る。
「どんな感じだ……?」
「見てみます」
だいぶ慣れてきた発動中でないアーティファクトの光を視る力のコントロール。今度は瞬きするだけで力を解放するイメージをしてみた。すると──
「……外付け電池式のパーツのみ、先ほどより光が強いです!」
「そうか……!」
コレは……うまくいくかもしれない。
そして緊張した空気が流れちょうど一分経った時。まばゆい光がランタンアーティファクトから発せられた。
「やった……!」
「成功だな!」
ランタンは、光続けた。数分間。
「小さい電池なんであんまり保たないかと思ってたんですが、結構保ちますね。っていうか。光量強くないですか?」
「そうか? 朝の目覚ましとかにはちょうどいいんじゃないか?」
あまりの光量に、直視するのは危険だということで。大吉さんがそれをカウンター下に置いた時、
「お邪魔するわよー!」
軽快なドアベルの音と共に舞子さんがやってきた。
「いらっしゃい、舞子さん! その後、どうですか? お店の方」
「少しは客、戻ってきたか?」
カウンターの所までやってきた舞子さんは、わたし達の質問に、少しの間を開けて重そうに口を開いた。
「……あなた達、知らないの? 警察に複数名負傷者が出て、客足はさらに遠のいたわよ……」
「「……!!……」」




