287. 新たな案
舞子さんは、あの姿を保つために、攻撃系や結界系のアーティファクトを使わない、使えないのだ。
「そこで、です。せめて選択肢を増やせるようにと考えたのが、既存のアーティファクトを電池式にするというギミックです」
「既存のアーティファクトを……電池式に……⁈」
そう言うと、目を見開き驚いた顔をする大吉さん。その様子から、やはり、そういう技術はないのだとわたしは確信する。
わたしはもう一枚のデザイン画を大吉さんに見せた。
一例として、舞子さんの髪留めを例にあげて描いてみたのだが、どうだろうか。わたしの絵でわかるだろうか……
絵には、舞子さんがいつも着けている星形のヘアピンにのチェーン部分に電池ギミックを入れた物をぶら下げた状態を描いたつもりだ。
「メガネ留めしただけの物も、立派なアーティファクトとなる。ならば、メガネ留めで電池ギミックを足したらどうかと思いまして」
「なるほど……だがメガネ留めだで繋げるだけでは電池機能はプラスできない……それはこれまでの研究からも判明している……」
難しそうな顔をしてそう言う大吉さん。
「そう思って、こちらを考えてみました」
わたしはもう一枚の紙を取出した。
「お借りしているクゥさんの手記に『既存のアーティファクトに能力をプラスする事はできないだろうか?』と、問いかけのみの一文がありましたよね。それで、わたしなりに考えてみた物なんですが……」
ただプラスするだけじゃダメならば、本体にも少し細工をすればどうだろうか、と。
「わたし的には……“誰かの作品に手を加える”だなんて有り得ないことです──」
そう、あり得ない。コラボするにしても、相手の方と相談しながら手を入れるのだと思うし。
「でも、それはわたしのいた世界の、古い時代の事で……」
わたしは自分のこれまでの感覚を変えていかないといけない。今ここで、この世界で生きていくために。
「なので、この世界での感覚を想像してみたんです。技術をちゃんと確立したなら、アリだと思いました。
これから作るアーティファクトやレプリカでしっかり検証して、その技術を確立した後なら──」
紙に書いたわたしの案とは。
一つのクリスタルを半分に割り、片方を本体となるアーティファクトに仕込み、もう半分をメガネ留めで繋げる方に仕込むというもの。
大吉さんと離れても連絡が取れるようにと作った、連絡用コウモリの金属パーツ入りアーティファクト。あれにも使用した方法で、もしかしたら後付けパーツをアーティファクトの一部とする方法に応用できるかもしれない、と考えたのだ。
「なるほど……既存のアーティファクトでそれを行う場合は、そのクリスタルの一部をなんとか取り付けなければならないからリスクが高いが……これから作るものでそれを試す事はできるな」
そう大吉さんから、肯定的な言葉を聞けて、改めてこの世界にいることを認めてもらえたかのような感じがして……。
その嬉しさから、わたしは自分にしか聞こえないような小さな声で「はい」とこたえていた。
「よし、なら試してみよう」
「……はい!」
今度はしっかりと、大吉さんにも届くように返事をした。
そしてそこからは、何でどうやって試すかの計画を詰め、日付が変わる前には就寝することを約束し、お互い自室にて作業に没頭した。
翌日──
店は通常の時間で開けて、合間に昨晩製作したものの検証を行うことにしたわたし達は。
朝の人の波が引いた時、それぞれの作った物を持ち寄り確認した。
昨晩一番身近な物で検証しようと相談し、たどりついたのがタイマー式ランプ。
大吉さんはランプのレプリカを担当、わたしは外付けパーツの方を。半分に割った水晶をそれぞれに組み込んで──
「ほれ、フツーのレプリカランプだ」
大吉さんが用意してくれたのは、ランタン型ランプ。ランプの内部に小さな星形のパーツと虹色の霧が渦を巻くように入っている水晶型のレプリカ。そして、件の半分に割った水晶は数本の小さな水晶と共に粘土質の物で台座に固定されているようで、その上から緩く捻じられたワイヤーが飾り付けられている。
「外付けと節属するための場所の候補は一応二箇所。ココとココだ」
ワイヤー飾りの一部とランタンの手持ち部分を指して言った。
「可愛いですね……! あと、これまでの大吉さんのレプリカと雰囲気が違いますね」




