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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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285. 用事の中身

「ありがとう、助かるよ」


 こうやって、頼られている大吉さんてかっこいいなぁ……そう思いながら、わたしはコクリとお茶を飲み込んだ。


「そういえば。ここにきた用事の内容をまだ話してなかったな。

 陥没の起きた時救助にきた者で、あれよあれよと瓦礫を退け、下敷きになった者を助け出していた、特殊部隊隊員の様な少女がいたと聞いたが」


 ぶほっっっゴホゴホ


 口内にお茶が残っていたなら、間違いなく吹き出していただろう。わたしは咳払いをしつつ、残りのお茶を喉から流し込んだ。


「そんな者がいるなら是非紹介してもらいたい! と言ったら、ココにくるよう言われてな」


 また、おちょこをクイっと煽って空にした喜光さんは──


「できたら紹介して欲しいんだが」


 ニコニコしながらそう言った。


「どんなアーティファクトを使っていたのかは想像でしかないが。聞く話によると、まるで再生の日直後の伝説に残るような光景だったと。おそらく物質を持ち上げ、移動させる能力の物なんではないかと思うんだが」


 ──!──


 冷や汗を流すわたしの横で、大吉さんが突然大口開けて笑い出した。


「はっはっは! お前そりゃ話に尾鰭がついてるぞ!」


 そして、話しながらわたしに視線を投げかけ、首を一瞬クイっと喜光さんの方に傾けた。

 話に乗れってことかな。


「実際は人のいる場所に目星をつけてピンポイントで瓦礫を退けていっただけだ。伝説に残るようなやつなら、丸ごと瓦礫を退けてるだろう」

「そ……そうですよねー! それに、その件の瓦礫を退けてた人物、多分わたしの事だと思うんですが。少女というには……ねぇ」


 二十五歳ですし、と小さな声で付け加え。


尾鰭(おひれ)つきまくりデスネ!」


 そう言い切る横で、大吉さんは再び喜光さんのお猪口に酒を注いだ。


「ボランティア程度なら、俺も一緒でよければいってやる」

「そうか、じゃぁそういうボランティアも募集かけといてみるかな」

「そうしてくれ」


 その後、大吉さんが出してきた日本酒を空になるまで飲んだ三人は。大吉さんから御茶漬けを出され、それを完食してから帰路についた。


 三人が店を出ると、わたし達は今夜予定していた作業のため、イソイソと閉店の準備を進める。キッチンの片付けがあらかた終わると、大吉さんは店内の掃除をはじめながら言った。


「藍華……すまないが俺の部屋、片付けができてなくてな……今日はここでいいか?」

「はい、もちろん! わたしの部屋も……特に机の上が色々出しっぱなしなので……」


 それに、部屋で二人きりって……ドキドキで心臓が保ちそうにないから……今はまだ…………


「じゃぁ、今のうちに必要な物を取りに行っておいてくれるか?」

「わかりました」


 わたしは拭いていた皿を所定の場所にしまい、自室へノートとペンを取りに行った。入れ替わりで

 、店の戸締りを終えた大吉さんが必要そうな物を持ってくる、と言って自室へ向かう。


「そうだ、琥珀糖どうなったかな」


 今日一日、カウンターに置かせてもらっていた琥珀糖。そのフードカバーを除けて見てみると……


「表面がすりガラスみたい……」


 上手く乾燥できているようだ。


 まだ乾いていない箇所に風があたるようにひっくり返したりして位置を変えていると、大吉さんが手に数冊の本のような物を持って戻ってきた。


「さて、はじめるか」

「はい!」


 大吉さんがカウンターに置いた本の一つを見ると、表紙には『アーティファクト教本』とある。


「大吉さん、それは……」

「別の場所にしまってあったから、すっかり忘れてたんだが。この教本はマスター試験前にクゥさんが使ったものでな、彼女の書き込みもある」

「マスター試験! アーティファクトの製作販売の許可が得られる免許の試験のことですよね!」


 確か、クゥさんも持っていたと。

 こちらに来て数週間もせずにそんな資格を取ってしまうだなんて。本当に彼女は色んな意味で規格外。そう思いながらわたしは問うた。


「あぁ」

「わたしも受けたいです。ここに留まるなら、わたしが出来る事って、やっぱりそれだと思うので」


 そう言うと、大吉さんの瞳は何処か遠くを見ているように感情が見えなくなり、フリーズした。


 何かあったのね……。その試験の時…………。(※)


「……大吉さん……?」


 遠慮気味に声をかけると、すぐさま瞳に光が戻り、


「す……スマンスマン! クゥさんの試験の時をちょっと思い出して……」


 フリーズしていた理由をそう述べた。


「そうだな……マスター免許は持っていた方がいいだろう。身の証にもなるし……。だが流石にあそこの試験官に藍華の作った物を鑑定されるとまずいかもしれないな……」

「どうしてですか……?」

「クゥさんのおかげで色々なアーティファクト技術が発展して、先細りだったレプリカ産業に未来ができた。そして鑑定アーティファクト使いのレベルもアップしててな……試験官ともなれば藍華の作ったアーティファクトやレプリカの潜在能力(ポテンシャル)に気づくだろう……」


 なんとまぁ。


「なんとかならないですかね……」


 生活していくのに、活動していくのに、少しでも収入は多い方が良い。免許が取れて、大っぴらに仕事ができるようになったら、もっと大吉さんの役に立てるかもしれないのに……


「なんとか……」


 大吉さんが目を細め、口元に手を当ててそう呟いた。


「なんとかなるかもしれない。少なくとも聞いてみる価値はある」

「???」

※参照【アーティファクトはあたしが作ったハンドメイド作品?!】





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