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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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280.神宝と古の巫女

 茹で卵は、深めのお皿に全員分を積み上げて。それぞれの皿の上には、こんがり焼けたトーストの上にハムとチーズ。そこにわたしの用意したポテトサラダにレタスを添えた小皿が加わり──


「「「いただきます」」」


 本日の朝食が完成した。


「ところで。寺院の修復、アーティファクトを使うんだって?」

「あぁ。賛否は出てるみたいだが……これ以上遅くなるのもいかんだろうと言う事で、な」

「そういえばどこか別の寺院の修復に、宮大工さんたちが駆り出されちゃっててこちらには来れないとか……」


 よほど重要な寺院の修復を行なっているのだろうなと思ってそう呟くと、喜光さんが答えてくれる。


「ナラの方で、古い由緒正しい神社が大規模な修繕をしていてな。あちらの方は元々が古いからアーティファクトで修繕していてはいけない、というか保たないんだ」


 アーティファクトでの修繕は、新品の状態には戻せないだろうし、おそらく限界がある。それで数年保たせるよりは、従来の方法で修繕したほうが何百年と保つのだ。由緒正しい神社なら、なおのことその方が良いだろう。


「結界が綻びて来ていたらしくて、場の守りのためにも宮大工は必須なんだ。それも良い宮大工が、な」

「そうなんですか……」


 そういえば龍石の神社も、双葉ーちゃんの所の神社も、結界のような物が張れるようになっていて、お社自体がアーティファクトだと……


「是非見に行ってみたいです、その神社。あと……宮大工さん達にも興味が湧いて来ちゃいますね」


 お社はアーティファクト。それならば宮大工さん達はアーティファクトのマスターも同じ。

 一体全体どのようにして出来上がっていくのか、可能なら作業してる所も見てみたい。


「お、それならまずこちらの修繕作業見にくるといい。宮大工のとはだいぶ違ってアーティファクトのマスターに近い作業になるが。一緒に来ている修繕師の一人は確実に宮大工の免許を持ってる。何か興味があるなら話を聞くこともできるだろう」

「そうなんですか⁉︎ 大吉さん、行ってもいいです?」


 剥いた茹で卵片手にウキウキしながら大吉さんをながめた。


「差し入れにコーヒーとつまむ物持っていくから、その時にでも」


 大吉さんは、そう言ってハムチーズトーストを一口頬張った。


「はい!」


 となると、先に聞いておきたいことがある。


「喜光さん、修繕方法について少し聞いても良いですか?」

「もちろんだ」

「アーティファクトでの修復と聞いたんですが、それは時を戻す系の力なんですか?」

「あぁそうだ。ただ、寺院全体なんて大きな物を一度で覆って発動できるようなアーティファクトは神器にも神宝(かんだから)にもないから、部分的に、小分けにやっていく作業になる」


 わたしはその作業行程を想像して、気が遠くなりそうになった。が、聞き覚えのない単語にわたしの意識は飛びついた。


「神宝……?」

「まぁ、仮にそんな物があったとしても、現在扱える者はいないがな!」


 はっはっは、と笑いながらそういう喜光さん。


 できることなら説明を、と目で訴えると、大吉さんはポリポリと頬をかきながら答えた。


「そうか、藍華は神宝の昔話を知らないんだったな。

 アレも“再生の日”の昔話と同様で、今じゃ御伽噺とマスター試験の歴史系でしか話題に上らないからな」


 あ、よかった。あまり一般的な知識ではないのね。


「神器とは神社仏閣が管理する、一応一般人に使用が可能なアーティファクトのことで、神宝とは国が管理する特殊なアーティファクトのことだ。あまり情報は公開されていない。何故なら“再生の日”の直後に使用されたと言われる物なんだが、力はまだあるようなのに扱える者がいなくなってしまったんだ」

「不思議な話ですね……」


 ふと思い出す、『古の巫女』の話。


「それは……ある日突然使えなくなってしまったんですか?」

「記録では、適応する者が出てこなくなってしまったとあったから、突然ではないな。代替わりしていって使用できる者が出てこなくなったようだ」


 それならば。その使えた者というのは古の巫女、覡にあたる者なのでは……


「それでも何十年か一度に使える者が出てきていたらしく、俺の知る記録では五〇年ほど前に使用されたのが最後だ」


 喜光さんの言葉に、五〇年前ってどこかでも聞いたな……と思いながら、大吉さんに聞いてみる。


「神器とはまた違って、物凄い力を持つのが神宝、って認識であってますかね?」

「あぁ。神宝の記録は、まるでお伽話のような話ばかりだ」


 何それ。そういう記録があるならぜひ読んでみたい。

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