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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第二部 一章 寺院の修復とその裏で動く影
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277.熱で生まれる空気の流れに細い糸がフワリと舞う

 スプーンから落ちゆく液体。落ち切る直前、熱で生まれる空気の流れに細い糸がフワリと舞う。


 コレだ!


「できました!」


 わたしは急ぎ火を止め、小鍋の中身ををガラス製のバットへ移す。すると、アーティファクトコーナーの整理をしていた大吉さんが、こちらを見て言った。


「お疲れ様。整形するのは冷えて固まってから、か?」

「はい。上手く固まれば──」


 以前調べた時、上手く固まらなかった事例もチラホラ見かけたけれど。あのフォロワーさんの記録を参考にさせてもらったから……きっと上手く固まるはず……!


「じゃあ、片付けを終えたら上に行こう」

「……はい」


 粗熱を取るため固く絞った布巾の上に乗せ、ホコリが乗らないよう上からフードカバーを被せる。


 ドキドキな緊張感も、危機感からくる緊張感も、琥珀糖を作っている間に薄まり、今はもうあまり感じない。

 それよりも、続きの整形作業までやりたい、という気持ちの方が上回っていた。


 粗熱が取れるのを待つ間に、使った鍋などを洗いつつ、わたしは一応聞いてみた。


「一時間くらいで固まるはずなんですけど……今日はもう休んだ方が良いですかね?」


 鍋を洗う水音が響く。大吉さんはチラリとコチラを見て、少し何かを考えるような間の後口を開いた。


「……そうだな。固まってすぐに整形しなければならないわけではないんだろ?」

「はい、冷蔵庫に入れておけば一晩くらいはそのままでも大丈夫なはずです」

「なら今日はもう休もう。明日から普通営業に戻す予定だし」


 そう言うと大吉さんは商品たちに布を被せはじめた。


「それ終わったら、先に風呂入ってくれ」

「……はい……」


 とは言ったものの、気になる。ちゃんと固まるかどうか……。


「大吉さん、寝る直前に確認に来るのは……」


 お風呂から上がり、寝る直前にでも確認したいな、と思い聞いてみたけれど……


「……今日はダメ」


 そう言ってわたしをじっと見つめる大吉さん。


「一応、長旅から帰ってきたばっかりだし……」


 そこまで言うとくるりとこちらに背を向け、窓側のアーティファクト達にカバーをかけながら続けた。


「久々のベッドだ。ゆっくり体を休めた方がいい。お互いに……」


 やっぱりダメか。


「……はーぃ」


 この店がアーティファクトで守られているとはいえ、無効化アーティファクトなんて物もあるのだから、過信はしすぎない方が良い。


 理解はできるけど、作りたい欲望を我慢するのは至難の業……でも我慢我慢。大吉さんに迷惑かけたくはないから。


 お言葉に甘えてわたしは先にお風呂をいただき、休ませてもらった。





 ◇◆


 翌日。わたしは部屋のドアがノックされる音で目を覚ました。


 コンコンコンコン


「ん……はぃ…………」


 目をこすりながらドアを開けると、そこにはウェストポーチ装着済みで、買い物用の袋を肩から下げた、出かける姿の大吉さんが。


「早くにすまないな。昨日の気配も消えてるし、レーダーに反応もないから、ちょっと仕入れに行ってくる。店は俺が帰ってきてから開けるから、藍華は好きなことして待っててくれ」


 寝癖がカワイィ触りた……


「はい……後で……一人で下にいっててもいいですか」


 琥珀糖の続き……やりたいし、キョウトで仕入れてきた資材での製作もしたいし頼まれ物の製作もしたい!!


 寝ぼけていた脳みそが、意識が、作りたい物がある事を思い出して覚醒した。


「他にもやりたいことあるので、仕入れに時間がかかるようでしたら、最終的にはここにいますが」


 キッパリハッキリとそう言ったわたしを、大吉さんは苦笑しながら見て手を出してくる。

 その手は一瞬わたしの目の前で止まると、ぽん、と優しく頭を撫でた。


「長くかかる予定はないが、何か作りたいものがあるなら作ってて大丈夫だ。みーばぁからの依頼の物も作るんだろ?」


 そう、仕入れてきた資材でみーばぁに依頼された『身代わり護り』もやれるうちにやっておかなければ。


「手伝いが欲しくなったら声かけるから、その時は頼む」


 頭から手が離れ、見えた大吉さんの表情は柔らかい笑顔に変わっていて。ドキン……と、昨日の緊張感がぶり返してきた。


「……了解です」



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