274.おかしな賊
わたしの心中の疑問は当然、大吉さんの言葉も無視して舞子さんは続けた。
「事件の話を聞いてすぐ、店の警備の者に頼んでお見送りしてもらっていたのよ。けど、数日間新たな事件は起きず。自分は大丈夫だから、っておっしゃってたお客様をそのまま送り出したら、その方が二件目の被害者になっちゃって……。
それ以後は警備の者やお店の子たちにお願いして、必ず大通りまでお見送りしてるわ」
「それ以後は被害無しか?」
「うちは、ね。護衛つけたおかげかはわからないけど」
「そうだな……。別の店はその後、護衛の者がのされた上で襲われているからな……」
護衛を倒せて、警察の警戒をも掻い潜って犯行に及ぶ。何か大きな組織とか後ろにいたりするんだろうか。
「まぁお前らには関係のない話しだろうが、一応情報共有しておくか?」
聞かれて、大吉さんは少し眉をひそめる。
きっと、巻き込まれたりしないかと心配しているのだろう。
けれど、知っておいたなら。何か手掛かりを見つけたらお知らせできると思うし、危険を避けるために知る事も必要でしょう? と思いながらわたし蓮堂さんを見る。
「一応興味あります。聞いてもいいんですか?」
わたしがそういうと、大吉さんは諦めたように軽く一息ついて言った。
「聞いておこう」
蓮堂さんは、わたし達を交互に見て苦笑する。
「件の事件が起きたのはお前たちが出発してすぐだ」
「次の日よ」
「花街の高級エリアにて、帰路についた客が狙われた。時間的には深夜を少し過ぎた頃の話だ。
犯人は、客を何か薬剤を染み込ませた布を嗅がせ、眠らせて。懐をまさぐり、貴重なアーティファクトには目もくれず、足のつきにくい一般的なアーティファクトと現金を抜き取っている」
「一般的なアーティファクト?」
「あぁ、ライトタイプとか、時計タイプとかのな」
「それと現金か……」
珍しいな、と大吉さんは言った。
アーティファクトは、貴重なものならば売ればそれなりの額にはなるはず。なのにそれを盗っていかないで一般的に普及している物を盗っていくとはどういう事なのだろう……? 狙いは別にある、ということだろうか……?
「その客達、警察に言えないようなアーティファクト持ってたりとか……」
「その可能性は低いだろう。身元も経歴も白い、御仁達だったから……」
「聴取でウソは言わない、か」
「当然よ! うちのお客さんもその中にいるんだから!」
珍しく、険しい顔をして言う舞子さん。
「まぁ、貴重なアーティファクトじゃ捌くのに一手間あるしな……」
「二、三日身を潜めて犯行に及ぶ、を繰り返していてな……素早い奴等なのか、そういうアーティファクトの使い手なのか、なかなか足が掴めんのだ」
手がかりも掴めず歯痒いのだろう、蓮堂さんは口元で手を組んで、目の前に置いたグラスを射るような目で眺めていた。
「奴等ってことは複数なのか?」
「二人組らしいということだ」
警察が……蓮堂さんが二週間も捕まえられずに、犯行を続けながら逃げおおせているってことは……かなりの腕の持ち主なんだろうな……
そんなふうに思いながらふと横を見ると、大吉さんは真剣な面持ちを蓮堂さんに向けている。
「二人組、な……一応気にかけとく。何か情報が入ったら連絡するよ」
「ありがたい」
大吉さんには蓮堂さんに、警察に把握されていないルートがあるのだろう。多分闇市とかもそのうちの一つ……。
「蓮堂。私の店が干上がる前にはとっ捕まえてちょうだいよ!」
蓮堂さんの背中をバシバシ叩く舞子さん。そしてその後、彼女が音頭をとると、ささやかな飲み会が開催された。




