273.きっと世のハンドメイダーさんのほとんどがこんな感じのはずだから……!
しばらくすると大吉さんが荷物整理を終えて戻って来たので、わたしも荷物を片付けに上の階へ。
「先に洗濯してくれって言ってたから服類は洗濯機に突っ込んで回しちゃお」
後で干しに来るのを忘れないようにしないと。
スタートボタンを押し、借りてる部屋へ行き荷物を片付けはじめる。依頼を受けた物の製作にすぐに取り掛かれるよう、わたしは仕入れて来た資材をニマニマしながら作業机の上に置いた。作業する時の事を思い浮かべながら。
ヘンタイとは言う勿れ、きっと世のハンドメイダーさんのほとんどがこんな感じのはずだから……!
喫茶店部分に戻ってくると、ちょうどドアベルの音が鳴り、舞子さんが蓮堂さんと共に入ってきた。
「お邪魔するわよー!」
「ついさっき達磨頭取から依頼完了報告、受けたぞ。皆、無事で良かった。ありがとうな!」
「おぅ」
「商隊も無事に往復できて、足りてなかった砂糖もコレで多少値が落ち着くだろう。感謝する」
「良いってことよ。砂糖の値が上がったままじゃうちの店にも大打撃だからな」
コーヒーも紅茶も、どら焼きだって砂糖が必要だものね。砂糖大事。
大吉さんの「何飲む?」と言う質問に、
「あたしはビール!」
「今日はもうアガリなんでな。いつものを一杯頼んでいいか?」
そう二人が答えた。
「もちろんだ。蓮堂は……珍しいな、こんな時間にアガリだなんて」
日はまだ高く、一般の人達もまだ仕事中な昼過ぎ。警察官で、いつも忙しそうにしている蓮堂さんがこの時間に仕事が終わりだというのは確かに珍しい。
大吉さんはテキパキと舞子さんの前にビールジョッキを、ワイングラスを蓮堂さんの前に置き、冷蔵庫からビールとワインの瓶を取り出した。
わたしはビール瓶の方を受け取ると、栓を抜いて舞子さんのジョッキに、大吉さんは慣れた手つきでワインのコルクを開けて蓮堂さんのグラスへ、それぞれに注いだ。
「ここんとこ署に詰めてたからなぁ。舞子が知らせに来て、良いタイミングだから帰って休めと署長命令がくだっちまったんだよ」
言われてみれば、無精髭が元気そうに伸びている。
「事件解決の糸口さえ見えてないのにおちおち休めるかっての」
そうボヤきながら蓮堂さんはグラスに注がれた赤いワインを口にした。
「詰めてたって。また何か事件か?」
「まぁな」
「おかげでうちの商売もあがったりよ……!」
鼻息荒く言う舞子さん。
「何があったんだ?」
「お客が夜の外出を怖がっちゃって、閑古鳥が鳴きそうよ! 警察が警戒を強めてくれてからは、少ぉし戻ってきてくれたけど……このままじゃ、ヤバいわ」
その表情から、かなり深刻そうだということを感じる。
そういえば、以前一緒に買い物へ行ってもらった時に聞いたっけ。舞子さんのお店も喫茶店、夕方から深夜にかけて開いている、大人向けの『高級なお店』だと。
「舞子の所でヤバいんじゃ、他の店はもっとヤバいんじゃない?」
「っていうか、夜の外出を怖がるって……何なんだ? 追い剥ぎでも出るようになったのか?」
「……身包み全部剥がされるわけではないんだがな」
アグネスとフェイの言葉に、蓮堂さんが答え
「全部だろうが全部じゃなかろうが同じよ」
舞子さんは溜息をつきながら言った。
「加えて被害にあってるのが、うちの店のある高級エリアだけだから」
「あ~なるほど。他の所は心配の必要が今のところないし、やっかむ奴らなんかからは格好の話題の的、か」
「そ!」
そう答えると、舞子さんはぐいっと一気にビールを飲み干した。
「それって舞子が護衛についたら一発じゃないのか?」
大吉さんがグラスを磨きながら問うと、ドン! っと、空になったビールジョッキをテーブルに置いて、不快そうにして言う。
「冗談じゃないわ! “隠れ屋の妖精”と呼ばれるこのあたしが! 出てって犯人をのす訳にもいかないでしょう⁈」
「ヨウセイ……」
大吉さんにも初耳なのか、何故かカタコトな感じでそう言うと、動きがストップしてしまった。
わたし的に舞子さんは女神って感じがするのだけれど。
「っていうのは半分冗談断として」
「ハンブン」
半分ってどれ。
妖精の方か、犯人をのす方か。




