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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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269.大吉さん、わたし……

 照らされているはずのその目を、表情を、確認する間も無くわたしの視界は赤い何かで埋め尽くされた。


「藍華! 明日出発だというのは本当か!」 


 ソレは蘇芳さんの赤い羽織。


 ものすごい勢いでやってきた彼は、わたしと大吉さんの間の壁に手をついたのだ。


「おま……! どけっ……邪魔するな……!」


 大吉さんが必死に蘇芳さんを退けようと、壁につかれた手を掴んで立ち上がる。


 わたしも立ち上がって、できるだけ離れようと後ろに下がるけれど、足元にあった飾り石に引っかかってよろけてしまった。


「……!」


 すると突然、空から優しく光る何かがが降ってきて、わたしの肩を持ち支えてくれる。


「おぉ、お主は……毎年我が社を掃除しにきてくれている者ではないか」


 それは、月のように輝くオーラを纏った人型の龍石。


「お前は……呪いのアーティファクトが解放された時にいた…………何者だ……⁉ 」


 突然の、空からの来訪者に驚いた蘇芳さんは、大吉さんに腕を掴まれたまま龍石を凝視して言った。


「ん? 我のことがわからぬか?」


 その時、龍石の懐から水晶龍が飛び出して、嬉しそうに蘇芳さんにすりついていく。


 おぉ……?


「ははは、水晶龍はお主のことが好きらしい。社の中で一番丁寧に磨いてたもんなぁ」


「龍石……ありがとう」


 わたしがそう言って体勢を立て直すと、龍石は蘇芳さんの所へ行き、大吉さんとは反対の手を掴んだ。


「まぁまぁ、中に入ろうではないか。お主も別れの宴会に来たのだろう? 掃除の礼もかねて、我がもてなしてやる」


 そう言うと蘇芳さんの手を引き、カラカラと扉の音をさせて中へと入っていった。


 ふと大吉さんの方を見ると、二人を目で追って扉をそのまま睨んでいる。


 蘇芳さんに対して怒ってる……? その表情すらも『カワイイ』と思ってしまっている自分は、きっと深刻な病にかかっているのだろう……。


 恋の病、というものに──。


 視線を左手小指にはめてもらった指輪に移して、右手でクルクルと回しその模様を眺めた。


 シンプルで、素敵なアラベスク模様……


 小指だけども、素直に嬉しいと思う。


「大吉さん、わたし……」


 わたしは、ゆっくり、まっすぐと大吉さんを見上げて告げる。


「大吉さんのことが──好きです」

「…………」


 大吉さんは少し驚いた顔をしてこちらを見ると、すぐに視線を逸らし、右手で左肘を支えながら左手を口元に持っていった。


 月明かりでは顔色までは分かりにくく、わたしは大吉さんを見つめたまましばらく動けなかった。


 ふわりと風が吹き、わたしはたまらず下を向く。


 何か……返事が……欲しいんですけど…………!


 妙に時がゆっくり流れているような気がする。どれくらい経ったのかも分からないけれど。先に動いたのは、その間に耐えきれなくなったわたし。


「スミマセン! 突然……」


 胸元で指輪を包むように右手を添え、ぎゅっと握ると、固まっていた身体をなんとか動かした。


「わたし、中に戻ります!」


 そう言って大吉さんの横を通り過ぎようとすると──


「待て……!」


 右腕を軽く掴まれ、引き止められる。


「俺にも言わせてくれ……!」


 俺()()……?

 涙の滲み始めた目で振り向き見上げると、大吉さんは必死な表情で……


「俺も……好きだ…………!」


 滲んでいた涙はいったん引っ込んで。わたしはゴクリと唾を飲み込んだ。


「資金がちょっと……足りなくてな…… 」


 そう言いながら腕を離し、わたしの左手を取る。そして少し小声になりながらも、大吉さんは何かを伝えようと口を開いた。


「だから……この指には……」


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