267.タイミングと輝く仮面
「藍華ー! 双葉ーちゃんの話終わったらこっちに来てくれー!」
突然大吉さんに呼ばれ、心臓が跳ねる。そんな事も、もう……なんだかお約束。ビクンと身体が震え硬まってしまうと、一気に頭から足先まで熱が上がったかのように感じた。
「行っておいで。タイミングはまぁ……わかるじゃろぅ」
「…………」
何のタイミングですか⁈ と思いながらも、花子さんの事が気になって、双葉ーちゃんの向こう側に座った彼女をチラリとみる。
すると彼女は、輝くような笑顔で一人テーブルに向かってお茶を飲んでいた。
二人きりで話をする前なら気づかなかったかもしれない。けれど今のわたしには、その笑顔がまるで心の裏側を見せまいとしている仮面に見えて……。
「……はい……」
遠慮をしてはいけない。それは……多分、彼女に対して失礼だ。
そもそも伝えたからと言って受け入れられるかもわからない……でも希望は捨てたくない──
などと。一瞬のうちに、色んな想いや考えで頭の中がぐるぐるして爆発しそうになり、わたしは静かに目を閉じて、心を鎮めた。
考えていてもどうにもならない。ならば──
「大吉さん、今行きます」
少しづつでもいい、動こう──。
そう決意をして、目を開け立ち上がった。すると、楽しそうに食事を進めるアグネスとフェイが目に入る。
大吉さんはテーブルから少し離れた所にいて。その横で、半分くらいまで飲んだビールのコップを片手に、田次郎さんがオイデオイデと手招きしている。
「宴会が始まったばかりなのにすまないが、酔う前に話したいことがあってな……お前たちは一応関係者だし」
わたしが大吉さんの隣に座ると、田次郎さんは少し声を潜め、アグネスとフェイを見やり、言った。
「あっちの二人には必要だったらお前たちから話しといてやってくれ」
「おぅ。で、何かわかったのか?」
大吉さんの言葉から、今回の事件に関する話がなされるのだと思い。一体何だろう? と、田次郎さんを見ながら次の言葉を待った。
「まず研究所へ、賊の侵入を許してしまった理由が判明した」
田次郎さんの言葉に、大吉さんもわたしも目を丸くした。
確かに、生体認証とかが必要な、あの厳重な結界システムの中、どうやって侵入を許してしまったのだろう、とは思っていたのだ。
「一体……何故だ……?」
大吉さんの問いに、田次郎さんは少し声を潜めて話し始める。
「端的に言うと研究所内に内通者がいた…………名は明かすことができないが…………」
「研究所に……」
信じられない、という声で大吉さんが呟く。
「教団に所属する者がいてな……」
そう言って、苦い顔をしながら田次郎さんは視線を下に向けた。
教団に……所属…………
「なるほどな……そいつが手引きして、犯人たちを招き入れたってことか……」
「あぁ。情けないことだが……な…………」
知り合い……だったのだろうか…………。田次郎さんの顔は、いつもより曇っているような気がした。
「教団に属する者は、かなりの数いるんだが……。昨日のうちに全員が取り調べを受けて、判明した」
「そうか……」
大吉さんの呟きの後しばらくすると、田次郎さんは下ろしていた視線を上げ、大吉さんとわたしを交互に見た。
「で、本題はこっちなんだが。特殊部隊が連れ帰った者達は、取り調べのため警察に連行されていったのは知ってるな?」
こくりと頷くわたし達。
「これもだが、警察の知り合いからの情報だ。奴の身分から、色々難しいことはあるだろうが、そのまますぐに出てくるってことはまずないそうだ。神器がいくつかダメになってる可能性も考えると、当分は出てこれないだろう……。
だから──藍華は……安心してくれ」
そうか……田次郎さんはコレが伝えたかったのか……。
「ありがとうございます……!」
わたしは田次郎さんの目をしっかりと見つめて言った。
もし……あの人の身分が尊重されて、勾留されることもなく、またすぐに自分を狙ってきたなら……どうしようかと。考えなくはなかったから……。
少し安心度が上がった気がして、わたしは一つ息をついた。




