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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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266.精魂込めて作られたお酒も……

「ホント、体調元に戻ったみたいでよかった!」


 一番に来たのは、アグネスとフェイ。食前に食べようと言って、お土産に羽二重餅を持ってきてくれた。


「ありがとーアグネス! 食べたいと思ってたの」


 羽二重餅。あちらの世界でも、中学の時の修学旅行でしか食べたことがなかったので、実は食べれるかもと、楽しみにしていたのだ。


「ん、美味しい……!」


 このほんのりした甘さと、食感……!

 むぐむぐと、一個丸々口に入れて。わたしは頬が溶けそうに幸せな感覚をじっくりと味わう。


「ところで、あと誰がくるんだ?」


「夕紀美さんと、双葉ーちゃんも誘っておいた」


 双葉ーちゃんも! そうすると一緒に花子さんも……かな。


「あとはー、田次郎さんも来るだろうな。呼んでないけど」


 ピンポーン

「おっじゃまっしま〜す」


 噂をすればなんとやら。

 招き入れずとも田次郎さんは迷わず襖を開け、入ってきた。


「すまないな……出る時一緒になって…………」


 一緒に夕紀美さんも。


「あー……まぁいいよ。なんか土産、持ってきてくれたんだろ? おじさん?」


 大吉さんが、積まれていた座布団を並べながらそういうと、田次郎さんは綺麗な和紙の貼り箱を取り出して言った。


「ホレ、土産。あぁ、一応藤壱係長と合同な。奴は来れないらしいから、宜しくと言っていたぞ。

 日持ちはするから、帰りの道中にでも藍華と一緒に食べな」


 なんだろう中身。食べ物……。楽しみにしておこう。


 お茶を啜りながら、わたしは羽二重餅をもう一つ口に入れた。


 色々な話をしながら夕紀美さんの診察を受けると、


「完治。もう普通の生活に戻っても大丈夫だ」


 と、言われた。


「ありがとうございます」


 あとはちょっと落ちてしまった体力をなんとか元に戻すのみ、か。まぁ、商隊護衛してれば戻るよね、始めはキツそうだけど……。


 気合い入れていこう、と心に決めていると、大吉さんが言った。


「双葉ーちゃん達は何時にこれるかわからないそうだから、先に始めてよう。

 夕紀美さんと田次郎さんは日本酒。アグネスとフェイはビール。藍華はどうする?」


「今はやめておきます……なんとなく」


 そう答えて一人お茶とジュースをお願いした。


 ほどなく料理が運び込まれると、神社ワープを使った双葉ーちゃんと花子さんがタイミングよくやってきて。


 二人を上座に通したわたし達は、座布団を五枚積み重ねた上に双葉ーちゃんを座らせて、何故か拝み倒していた。わたしもつられて手を合わせて拝んだけれど。


「やめい。わしゃただの人じゃ!」


「双葉様のお許しが出たぞー! 飲むぞぉおおおお!」

「大吉、その日本酒ついでくれ!」


 率先して動き出すのは田次郎さんと夕紀美さん。アグネスとフェイは楽しそうに田次郎さんと乾杯をして飲み始め、大吉さんは呆れたようにため息をついて、夕紀美さんに日本酒を注いでいた。


 お酒を飲んではいないのに、何故こんなに楽しく感じるのだろうか。人って飲まなくても酔えるんだねぇ、としみじみ思う。


 そして、飲みかけだったお茶を飲んでいると、わたしは双葉ーちゃんに呼ばれた。


「藍華、ちょっとおいで」


 隣に行って座ると、双葉ーちゃんは座布団五枚で同じくらいの目線になっていて、じっと見つめられる。


「よぅ頑張ったな……」


 そう言うと、歴史の刻まれているしわしわなその手で、わたしの頭を撫でてくれた。


「…………」


 大吉さんとは違った、なんとも言えない安心感を感じて、わたしは目が潤んでくるのを感じる。


「思う通りに進みんさい。藍華にはその力が備わっておる……いざとなったらわしも花子もお主の力になるからの……」


 そう言うと、倒れたら危ないからと、積まれた座布団から降りた。


「花子、例のものを」

「はい」


 双葉ーちゃんに言われて花子さんが並べられた料理を少し避けて、持参した巾着をわたしの前に置いた。


 するりと紐が解かれると、コルクの栓で蓋をされた、白い磁器で出来た徳利(とっくり)が出てきた。


「これは……」


「うちの神社に奉納されてた御神酒だ。後でお飲み」


 奉納された御神酒って、一般人がいただけるの……?

 そう思って双葉ーちゃんを見ると、


「奉納された物は授与品(おさがり)として人々に徳の種を蒔く。病み上がりの体に良いぞ」


 すかさず心に浮かんだ疑問の答えが返ってくる。


 なるほど、奉納されるお酒や食べ物はそうやって一般人の手にも渡るのか……。


「……ありがとうございます」


 徳利に目線を戻すと、不思議な事に気づいた。気のせいだろうか、輝いて見えるのは。


「御神酒となるような日本酒は人の手で、昔ながらの製法で作られる。精魂込めて作られたそれは、アーティファクトとどこか違うじゃろうか……?」


 双葉ーちゃんもそう言って徳利を見た。


「視える者にしか理解できんと思うが……わしにはコレもアーティファクトじゃ」


 これがお酒版アーティファクト……。

 君にはどんな力があるのかな──?


「身を清め、悪いものを出す効果は抜群にある。ついでに勇気も出させてくれるかもしれんぞ」


「…………」


 そう言っていじわるそうな微笑みを浮かべる双葉ーちゃん。わたしは心臓をギュッと鷲掴みされた気分になり、苦笑した。


 全く……どこまで視えているのやら…………

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