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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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265.タイミングぅ

 人力車でも頼もうか、と言ってくれた大吉さんに、わたしは歩いて帰りたいとお願いした。


 だって。人力車ってめっちゃ密じゃないですか。心臓が耐えられませんて。


 早くは歩けれないけれど、二人でこうやって並んで歩くのも……イィ……。


「ところで、今晩宴会なんですね?」

「あぁ、すまない。勝手に決めて……」

「大丈夫ですよ。でもそうすると……もしかして出発は明日ですか?」


 商隊の予定はそうそう変えれるものではないと思うし、体力的には馬車に乗ってるだけなら問題ないだろうと思って聞いてみる。


「そうだ。達磨頭取がすまないと言っていた。

 だが、草津に泊まるようにしてくれて、出発は午後だ」

「それは逆に嬉しいですよー! またあそこの温泉に入れるなら!」


 夜警も必要ないとなれば尚更わたしの体には優しいプランだ。


 大吉さんは、わたしの少しゆっくりな歩調に合わせて歩いてくれて。途中、お茶もしながら宿の離れに戻ってきた。


 中に入ると、布団が一組みだけ敷かれたまま。座卓は壁際に寄せられていた。


「布団……?」


「夕紀美さんが言ってたろ? 少しでも疲れたと思ったら休めって。だから、敷いといてもらった」


「あ、ありがとうございます……」


「歩いてきて疲れたろ。どうする、休むか?」


「そうですね……」


 リハビリが必要な程ではないけれど、一日ベッドの上で休んでいただけで、体力は落ちるようで。

 疲労感は感じていた。けれど──


「でも……先に……」


 わたしが布団よりも先に望んだのは。


 お風呂。


 昨日の夜は捕まっていたからお風呂なんて入れてないし、色々あって、とにかく身体を綺麗にしたかったわたしは。

 戻ってすぐ、離れの半露天へと行った。


「あ〜〜〜〜生き返るぅぅううう!」


 全身くまなく石鹸だらけにできる幸せよ。


 わたしがお風呂に入ってる間、大吉さんは「ちょっと行くところがある」と言って、街へと出かけた。


 出た時いないのも寂しいけれど、待たれるのも少し恥ずかしいという、微妙な乙女心がわたしにもあるようで。


 一先ず湯当たりだけはしないよう気をつけて、一人露天風呂を満喫した。


 お湯から上がって、水分補給をし。わたしはそのまま布団に潜り込んで、眠気の導くままに身体を委ねる。


 何か夢を見たような気もするけれど、内容は覚えていない。けれど、何か幸せな感覚だった。


 畳の良い香りに包まれて──

 さわさわと、何かを感じ目をそっと開くと……目の前に優しい顔の大吉さん。

 愛しさを感じるけども、寝顔、しかも口半開きだった顔を見られるのはちょっと…………。


「お……かえりなさい……」


 布団をひたいの辺りまで引き上げながらそう言うと、さわさわと感じていたのは、大吉さんが私の前髪を触っていたからだと気づいた。


 距離が近いです大吉さん……


「おぅ……ただいま……」


 なおもさわさわと前髪付近を触られている。

 コレは……告白するチャンスだろうか。

 でも、何か虫が付いてたから取ろうとしてただけ、とかだったら……⁉︎


 大吉さんの言動の端々から、憎からず思われているだろうか、という期待は感じるけれど……


「…………」


 勇気を出せ自分。自分が好きだという気持ちは変えられない。もし、大吉さんからの気持ちがそういうものでなくとも、わたしは……!


「「あの……」」


 勇気を振り絞って出した声は。何故か大吉さんと重なって。


 ピーンポーン


 何故かチャイムが鳴った。


「……多分昼飯だ。食べれるか?」

「……ハイ……」


「じゃあ持ってきてもらうな」


 そう言うと、大吉さんはポンポンとわたしの頭を撫でて、玄関の方へと向かった。


 タイミングぅ……!


 大吉さんが何を言おうとしたのかも気になるけれど。

 言うのも聞くのもタイミングを逃してしまったわたしは、そのまま大吉さんが頼んでくれたお昼ご飯を食し、明日の予定の確認をし。

 夕方皆が来るまで時間があるからと、ひたすら身代わり護りを作ることに没頭してしまった。


 ◇◆


「では、皆さんが到着次第お知らせください。お食事と飲み物をお持ちしますので」


 宴会前に、料理や飲み物の確認をしにきてくれた仲居さんが、部屋の用意をして、そう告げた。


「ありがとうございます」


 縁側の小さなテーブルの所で作業の続きをしていたわたしが顔を上げてお礼を言う。すると向かいに座り、何か新聞のような物を読んでいた大吉さんもそちらを見た。


「ありがとう、よろしくお願いします」


 仲居さんは笑顔で一礼をして、襖を閉めていく。


 タイミングを逃し、アレからずっといつも通りな感じのわたし達……。


 それはそれで嬉しいのだけれど…………!


 悲しいかな、心はしょんぼりしていても、手は動かせてしまう。

 作業をしているうちに、そんな心は何処かへ行き、いつの間にか作ることに集中していて。


 これまでは雑念とか渦巻いて、集中するのに苦労することもあったのに、不思議な感覚──


 そして。気づいたらもう皆んながやってくる時間になっていた。

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