262.微かな光
感じる。
神器達の微かな光を────
そちらの方を見つめたまま、動かぬわたしを心配してか、全員がわたしに注目していた。
「闇が濃くて、ハッキリとではないんですが……神器達の光を感じます……」
「本当か⁉︎」
グイッと近づいてきた蘇芳さんを、避けるように動いたら。大吉さんの方へ倒れそうになり、両手で肩を支えられてドキリとする。
「は……はい……!」
「すまないな、ちょっとみんなと相談してくる。
藍華、何かあったらいつでもオレを頼れ!」
そう言うと、蘇芳さんは走って蝶子さん達のいる方へと行ってしまった。
「……俺がいるから必要ないっつーの…………っと…………」
不満げな声でそう呟いた大吉さん。アグネスとフェイの視線に気づいてか、そっとわたしを押し戻し、パッと手を離した。
再び跳ねた、わたしの心臓。
それは思考も動きをも、限りなく鈍くしたようで。わたしは戻された状態で固まってしまう。
「まぁ、何はともあれ。無事でよかったし、動けるようにもなったみたいで良かった!」
そう言うとアグネスはわたしをギュゥっと抱きしめてきた。
「ん……みんな本当にありがとう……!」
しばらくの抱擁ののちアグネスが離れると、蘇芳さんが蝶子さんを連れてやってきた。
「藍華!」
「藍華さん……!」
アグネスが場所を空けフェイの方へ行くと、二人はそこにしゃがみ込んだ。
「神器の反応があるというのは本当ですか……⁉︎」
疲労の色の濃い蝶子さんは、肩で息をしながらそう聞いてくる。
わたしは再び目を閉じて、神器の力を感じ取ってみた。
「……微かに。ただ揺らいでいて、それが一つなのか複数なのかは……わかりません」
先程と同じ、闇がまだ濃いのか光は弱く、揺らいでいる。
「蝶子」
「式を飛ばします」
蘇芳さんの一言に、蝶子さんはすぐ意図を汲んだらしく、懐から人形の紙を取り出した。
「お前の見立てでは何時ごろだ?」
「中心部の方は当分無理でしょうね……二、三日経ったとしても、難しいと思います。
ですが、確認するだけなら今日中には」
呪いの影響が無くなるのはいつか、ということだろうか、二人はどんどんと話を進めていく。
「ならば一度戻って、態勢を整えてからになるな」
「えぇ。専用のアーティファクト等が必要になりますし、私たちの休養も急務です。万全の体制で行かないと……」
「神器を回収に行くんですか……?」
すぐには無理そうだけれど、神器が回収され、修復されるなり、第一研究所のアソコに収納されるなり、するのなら良いな……
そう思いわたしが聞くと、蘇芳さんが肯定した。
「そうだ。神器は例え力を失っても大事に保管される。いつかまた、役に立つ日が来るかもしれないからな」
「…………」
その言葉に、ドラゴンブレスライカのことを思う。
今回は再利用という形で神器達からパーツを頂いたけれど、もしかしたらそのままの形で力を取り戻す時もくる可能性もあるのでは、と――
「蘇芳さん、私は式を操るのでここから離れられません。貴方達はひとまずキョウトに戻ってください」
蝶子さんが、立ち上がりそう告げる。
「それは――」
すると、蘇芳さんは少し迷う感じの表情で、立ち上がった蝶子さんを見た。
「風間と喜光の二人で、あの人数を連れて行くのは無理です。加えて紅梨は急いで戻らねばなりません」
風間というのはあの忍者風味な人のことだろう。
見ると、喜光さんと二人で何かをしている横に、あまり顔色の良くない紅梨さんが座っている。
「彼女も藍華さん同様、専門医の治療が必要です。貴方は彼女を医師の元に連れていかなければ」
蝶子さんも顔色はあまり良くないけれど、そう気丈にピシャリと言い放った。
「だがお前は……」
「心配いりません、特に敵がここにいるわけではありませんし、式を飛ばして神器の状態を確認するだけです。夕方には私も戻りますから」
「よかったらあたし達が残ろうか? と言いたいところだが……」
アグネスがそういうけれど、蝶子さんは首を振って断った。
「お気持ちは感謝しますが、私一人なら使える移動手段というものがありまして……」
「そうか……」
アグネスも、大吉さんと一緒に神社から飛んできているので、残るとなると帰りは歩きになってしまう。断られることを想定していたのだろう、そう短くつぶやいた。
「……わかった。十二分に気をつけろよ」
まだ、心配はしているのだろう、雰囲気からそうとれる。けれど、蘇芳さんはそう言うと、他の連中に話してくると言ってその場から離れていった。
「藍華さんには……もしかしたら後日、神器のことで何かご連絡がいくかもしれませんが……。
それはキョウトにいる間のことではありません。こちらのことは気にせず、しっかりと治療を受けてください」
その言葉に、蝶子さんも、わたしが何処から来た者なのかわかっていそうだな、と感じる。
「あぁ、あと藍華さん。ご自分で歩くのはまだ早いです、大吉さんにしっかり連れて行ってもらってくださいね」
そう、何処か含みのある笑顔で言うと、顔が真っ赤になっているであろうわたしを見てから、蘇芳さんを追いかけて行った。
そして────
別ルートで帰るという、特殊部隊の人達とはそこで別れ。わたし達は、神社を使ってキョウトヘと戻った。
アグネスとフェイは一足先に宿へと戻り、大吉さんに抱えられたわたしは、すぐに病棟へと運ばれ。
そして夕紀美さんのお小言を聞きながら、検査と治療を受けることとなったのは言うまでもないだろう……




