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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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259. あぁ……その癖毛さえもが………

「……か……藍華…………」


 遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた気がして、ゆっくりと目を開けると……


 目の前には、黒髪で長髪を緩くまとめて右肩から流している、目に青タン、頭部にはコブが見える人型の龍石がいた。


「……龍石……⁉︎」

「大吉ー! 藍華が目覚めたぞ!」


 目を見開き驚いているわたしをよそに、龍石は大吉さんを呼んだ。


 すると走りくる音が二人分。


 わたしが首を動かす前に、龍石と反対の右側から視界に入ってきたのは──大吉さん。膝をついて覗き込んできた。


 寝癖だろうか、いつもと少し違う感じの跳ね具合の髪をしていることに気づいた。そして、視線が合ったその瞬間、わたしは胸に温かいものを感じて……


「……大吉さん……」

「藍華……!」


 あぁ……その癖毛さえもが………


「気分はど」

「藍華! 駆けつけるのが遅くなってすまなかったな」


 流れ始めた雰囲気と、大吉さんの言葉を遮ってくれたのは、もう一人の足音の主。蘇芳さんは龍石を押し退けて羽織をなびかせながら立膝をついて話しかけてきた。


「蘇芳さん……もう……大丈夫なんですか?」


 大吉さんを完全に無視して話しかけてくる様に、わたしは苦笑するしかなく。とりあえず電撃の影響は残ってないのか、と聞いてみた。


「問題ない。それよりお前の具合はどうだ?」


 反対側からは大吉さんが心配そうな顔をしてのぞいている。


 わたしは目を閉じ自分の状態を感じ取ってみた。


「だるさはまだ感じますけど……。体も動かせるみたいですし、治療を受ける前に感じてた……無力感とか不安な感じがなくなった気がします…………」


「そうか……身体と精神を繋ぐ箇所が消えかかっていたと蝶子が言っていた。人はそこを失うと命の火が尽きる……死んでしまうんだそうだ。

 あの連中も同様で、奴らを死なさないためにもそこしか回復できなかったそうだ……」


 そうだ……わたしより長く、もっと近くで呪いの闇に晒された彼らの方が……


 そう思って何とか動かせるらしい首をそちらに向けると、蘇芳さんを呼ぶ声が聞こえてきた。


「蘇芳、早く戻れ! お前のエネルギーがまだ必要だ!」


「すまないな、もっと近くにいてやりたいんだが」

「お前はいいから早くあっちに行け。呼ばれてるだろ」


 今度はイライラしている風な大吉さんが、蘇芳さんの言葉に被せ気味で言った。けれど、蘇芳さんはピクリと眉を動かしただけで自分の話を続ける。


「まぁ、しばらくは休養を取ることだ……また後でな」


 すっくと立ち上がり、そちらへ向かおうとする蘇芳さんに、わたしは伝言を頼んだ。


「蝶子さんに、ありがとうとお伝えしてください……」


 すると彼は、右手を上げて返事をし、振り返らず走っていった。


 どうやら纏めて治癒を施しているようで。他のメンバーが蝶子さんへと、どうにかして力をわたしているようだった。


 あ……感知の力も戻ってるみたいだ……。


 直接は見えない所に、蝶子さんと彼女を囲む特殊部隊の面々、それぞれのアーティファクトの光をぼぅっと感じる。

 感知ができる嬉しさを感じながら青い空をぼんやりと眺めていると、額にふわりと何かをのせられた。それが大吉さんの手だと気づいて、わたしの顔は自然と綻んだ。


「藍華、ベルカナを使うぞ?」

「……ありがとうございます……」


 わたしは、大吉さんの手の温かさをじんわりと感じながら目を閉じた。


「ベルカナ」


挿絵(By みてみん)


 額からベルカナの力は身体全体へと広がっていく。


 怠かった感じがどんどんと消えていき、手にも、足にも、力が戻ってくる。


 大吉さんの手が離れ、目を開くと、早く顔が見たくてわたしはくるりと大吉さんの方へと顔を向けた。


 すると、少し心配顔だった大吉さんの顔は笑顔になる。


「……どうだ?」


「随分力が戻ってきた気がします」


 先程まで声を出すことも大変だったのが、大丈夫になった。自分で声にも力があると感じれるし、今なら起き上がれそう。

 わたしは改めて横向きになり、両手で身体を支えながらゆっくりと上半身を起こした。


「あ、無理しなくていいぞ……」


 慌ててそっと肩に手を添えて心配そうに声をかけてくれる大吉さんに、わたしは笑顔で答える。


「いえ、大丈夫です。走ったりジャンプしたりはまだキツそうですけど──」


 座って、両手を胸の前あたりでにぎにぎしてみると、震えも違和感も感じない。


 手をひざのところに置き、改めて大吉さんの目を見てわたしは言った。


「お手数おかけしてスミマセンでした……」


 ここがどこだかわからないけれど、ここまで来るのにも、どれだけ大変だったのか……


「手数なんかじゃ……ない……」


 そう言って、大吉さんはふわりと微笑んだ。


「大吉は自分のやりたいことをやっただけ、気に止むことはなかろう」


 そう言って後ろから覗いてきたのは、先程蘇芳さんに退けられた人型を取っている龍石。


「龍石も無事で良かった……!」


 とりあえず人型がとれてここで動けているということは、呪いの影響がそこまで酷くはなかったということだろう。


 青タンやらコブって…………元の姿になった時どうなっているんだろうか…………?


「大吉に触れられた瞬間、我も結界に包まれてな。おかげで何とか無事だ」


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