255.一足先にきた……
キュイィイイイ‼︎
頭上から、聞き覚えのある声が降ってきた。
「水晶龍⁉︎」
どうやって一人で動いて……⁉︎
見ると、水晶龍の首に見慣れないネックレスがある。
「ドラゴンブレスライカの……欠片……?」
それは、黒いビーズを繋ぎ目として、首紐とトップ部分に別れていて。トップにはネット編みと呼ばれる手法で包まれたドラゴンブレスライカの欠片がついている。
見覚えのあるその編み方に、わたしは確信した。
「大吉さん……」
お店の飾りになっていたネット編みと同じ──!
心に湧き出る何かを感じて目が潤むけれど、涙を流している間も無い。
『藍華、急げ。其奴のために作った物があるだろう、それをつけさせるんだ』
何故それを知って……と聞こうと思ったけれど、龍石の千里眼も健在なのだと気づき、改めてホッとした。
どれくらい元の力が残っているのかはわからないけれど昔と同じようなことが出来るのなら、よかった、と。
取り出したそれを水晶龍に付けさせ、大吉さんが作ったであろうペンダントを外して袋に入れようとすると、龍石がそれを止める。
『それは藍華が付けろ。
それには作り主の想いが……藍華を守る力も持っている……』
キュィ!
「想いが…………」
暖かく光るそれをほんの数秒見つめ、ギュッと握り、
「わかった……」
わたしはそれを首から下げた。
「龍石、わたしを乗せて、ここからどれくらいで大吉さん達のところへ行ける?」
『距離は五キロ弱だな…… 藍華一人乗せるとして、お主が耐えられるなら二、三分……といったところだが……』
この人数では難しい、と考えているだろう龍石の様子を見ながら、わたしは頭の中で必死に考えた。
間に合うかどうかも、呪いのアーティファクトの解放の影響がどの程度まで広がるかも、全部が賭けになる……でも――今思いつく最善の方法でやるしかない……!
「龍石、連れてきた人たちをまとめてそこに置いて。
水晶龍、あなたの中の黒い玉、呪いのアーティファクトを出してちょうだい」
きゅぅう?
心配そうな声に、わたしは大丈夫と答え、
「心配しないで、すぐに結界で覆い直すから」
目の前に浮かぶ水晶龍の頭を撫でながら新たなお願い事もする。
「それで、玉を出したらこの人達を飲み込んでおいてくれる?」
お願いした場所、ユキノブの近くに置かれていく者達をみて、水晶龍は少し切ない声を出す。
キュィイー。
嫌なのか。
『……そんなことができるのか……⁈』
水晶龍の能力全てを把握していたわけではないようで、龍石は驚愕していた。
水晶龍の能力、聖水運搬のためだろう無限の胃袋。
それは、多分こんなことも可能だろう、というわたしの勝手な想像だったけれど。本人のその様子から、不可能ではないのだろうと判る。
「新しい首飾りでパワーは安定してるみたいだし、龍石もここに、一緒にいるからきっと大丈夫! お願い……!」
両手を目の前で合わせて、真剣な顔で見つめると、
キュイ!
決意してくれたようで。その瞳には、強い意志のようなものを感じた。
急ぎ手を差し出すと水晶龍はグッと喉を鳴らし、エロ〜んとビー玉サイズの黒い玉を吐き出した。あの時のように。
「アルジズ!」
わたしは急ぎ小さな結界でそれを覆い、少し離れた場所に転がっている蘇芳さんを目で指しながら言う。
「水晶龍、そこの焦げちゃってる赤い人もお願いね!」
黒い玉は、ザワザワとその形をゆらめかせていて、結界がなかったら数秒も保たないように見える。
「龍石、この呪いのアーティファクトを、あそこのと一緒に結界で覆いたいのだけど。聖水であそこまでの空間を清めれる?」
あそこに辿り着く前に結界が壊れては元も子もない。
『数秒しか保たなくてもよければ』
「それでいいわ」
龍石が空を仰ぎ、咆哮を一つ放つ。すると、わたし達を囲むドームから一筋の道を作るかのように、一瞬だけ雨が降った。
闇の光はその部分だけ消えて、ドームから浄化された道がのびる。
「ありがとう!」
ズォオオオオっと、後ろで何やら物凄い吸引音がしている中。力の限り、それをもう一つの呪いのアーティファクトの方へと投げた。




