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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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254.知らない顔、懐かしいような気配

 はじめ、抵抗しているようだった五つの神器の光も、みるみるうちに飲み込まれてしまった。


 そして神器達自身もが飲み込まれた瞬間、何か衝撃波のようなものが発生し、六人は数メートルほど弾き飛ばされ、ボロボロだったホールはさらに破壊された。


 衝撃波はわたし達の所まで届き、ガラスを割り砕く。

 割れたガラスはわたしの頬を掠めユキノブに刺さり、小さなうめき声と共に締められていた力が緩んだ。


 そして装置から黒い光が四方八方へと伸び、わたしたちのいる場所へも向かってきて、

 黒い光に飲み込まれる! と目を瞑ったその瞬間────


 何処から来たのか、白い光と共に頭上からものすごい勢いで水が降ってきた。


「「……⁉︎……」」


 一体何が……⁉︎


 はじめ、バケツをひっくり返したかのような勢いだった水は、立っていられなくなる程の水圧になって呼吸もままならなくなる。

 そうしてユキノブの腕から解放されたわたしは、縛られたままの手で頭を守るようにして覆い、座り込む。


 やがて水がおさまり思わず大きく息を吸うと、水が少し気管に入ってしまったようで、わたしは咳き込んだ。


「けほっけほっ……!」


 頭の方にしていた手を口にあてて咳き込むと、握っていたはずのプチ身代わり護りは何処かにいってしまい、ユキノブも同じように四つん這いになった状態で咳き込んでいることに気づく。


「この水は……一体…………?」


 体を起こして周りを見てみると、蘇芳さんは少し離れた所に蔦の拘束が解けた状態で倒れていて、わたし達は黒い光を阻む水の壁、ドームに囲まれていることがわかった。


 そして客席の後に、黒い着物を着た一人の男性が立っていることに気づいたわたしは、その顔をまじまじと見つめた。


 知らない顔だけど、何故だかその雰囲気に覚えがあるような気が…………


「無事か? 藍華よ」


 男が客席を避け蘇芳さんの前を通ってわたしの方へと歩いてくると、ユキノブが息を切らせながら問うた。


「な……何者だ……⁉︎」


「お主は少し寝ておれ!

 藍華をこんな目にあわせおって」


 手をスッと差し出しわたしの後ろ、ユキノブの方へと向けると、何もない虚空から水の鞭のような物が伸びていき、ユキノブを殴り(?)飛ばした。


 わたしは立ち上がり、大吉さんと同じくらいの背だな、と思いながらその顔をまじまじと見てみるけども。

 見覚えはなく……でもその雰囲気から何処かで会ったことがあるような気はしていた。


「あなたは……誰…………?」


「ん? ワシが何者かわからんか? ならばコレでどうだ?」


 男がそういうと、その姿は下から湧き出た水に包まれて──


 水から出てきたのは長い身体をうねらせる黒い龍…………!


「……龍石……⁉︎」


『そうだ。目を覚まし意識が多少戻ったんで、千里眼を使ってお主の気配を追っていたら、何やら危険な物のそばにいたのでな、急ぎ馳せ参じた』


 龍の表情はわからないけれど、先程の男性の笑顔が脳裏にチラつく。


「無事に動けるようになったのね……!」


 わたしは思わず龍の首に抱きついた。


『お主のお陰で、な……』


 その声は照れているようで、喜んでいるようで、わたしの心に心地よく響いた。


『さて……藍華よ……この場から急いで離れた方がいい。水晶龍と大吉も近くにきているようだし、そこなら呪いの影響は及ばないから連れて行くぞ』


 連れて行くことは龍石の中では絶対事項らしく、わたしの前にその長い身体の一部をうねらせて乗れと言って地面に固定する。


 舞台の方の六人と特殊部隊の人達は……? とそちらを見ると、舞台の魔法陣部分は完全に闇に飲み込まれ中が確認出来ない。


 六人は意識を失い全員が舞台に倒れているようで、特殊部隊の面々は、それぞれが何かの結界に守られているのか薄く広がる闇の中、舞台の端四箇所は白い光が微かに確認できる。


『この場所全体に我の聖水をかけたから、ほんの少しの間ならば呪いは広がらぬと思うが……』


 魔法陣の内側の闇は蠢き、今にも爆発的に広がりそうな雰囲気を醸し出している。


「わたしがあの濃い闇を覆うように結界を張ったら、あそこの人達を連れて来れる……⁉︎」


『……試してみよう』


 わたしは急ぎ、足元に気絶して転がっているユキノブの懐から袋を取り、中を確認する。


「よかった……! 全部ある……!」


 わたしは急ぎウォレットチェーンを取り出し袋を下げた左手に握り、舞台の方へ右手を突き出し急ぎ唱える。


「アルジズ!」


 白く輝く結界が、魔法陣をピタリと覆うように、闇をドームに閉じ込めるかのように、張られた。


 すると付近の闇は薄くなり、水の結界向こうの舞台が一段階明るく感じられる。


『すごいな……闇が切り離された……』


 感嘆の声を上げると、龍石はゆるりと動いて天に向かって吼えた。


 オォオオオオオオオオオオオ‼︎


 すると、途端に物凄い雨音が聞こえてきて、ホール全体の天井を破り雨水が、龍石の呼んだ聖水の雨水が降り注いだ。


 みるみるうちに黒い闇は浄化して行き辺りがクリアに見えるようになる。


 やがて龍石が吼えるのを止めると雨は止み、頭上には朝焼けの空が広がった。


『藍華はここから動くなよ』


 龍石はそう言うと、舞台の方へと向かった。


 わたしはその間にベルトにチェーンをつけ、あらためて袋の中を確認する。

 ドラゴンブレスライカの入った箱と、髪ゴムとシュシュに擬態したままの棒人間魔法陣のアーティファクト。

 電池(エネルギー)がまだ残ってたのか、これのことがバレなくてよかったと思いながら、大急ぎで髪をまとめ、指輪をし、ウォレットチェーンを装着し、ユキノブを見る。


 胸に刺さったガラスはそこまで深く刺さっていなかったのか抜け落ち、龍石の水『浄めの水』で傷は治っているようだった。

 ひとまず命は無事そうだとホッとして、蘇芳さんの方も見ると、龍石の聖水は感電のショックも軽くしてくれているのか、顔色は良くいつ目覚めてもおかしく無いように見えた。


『こやつ等とそこの二人も連れて行きたいのだな?』


 龍石が戻り、六人は尻尾でぐるぐる巻き状態、特殊部隊の面々は両手に二人づつ連れてきてくれて言った。


 龍石の言葉にまるで走馬灯のようにこれまでのユキノブにされた事が、ユキノブの言っていた事が脳裏に走る。


 ユキノブ……この人は、様々な事の責任を取らないといけない……。


「……えぇ!」


 わたしが答えたその時──


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