253.その神器に隠されていたもの
「ようく見てください、あの美しい輝きを!
あの光がそのうち貴方の元に現れます──そしたら────」
これ以上にも強くなるのかと目を瞑りかけたその時、オオトリの持つ神器から伸びる少し青みがかかった光が、一瞬のうちに黒い物へと変化した。
「「……⁉︎……」」
あの黒い光……雰囲気に覚えがあるような……
身震いしてハッとした。
ユキノブが気配を追えていたという時にわたしの元へ来ていたあの黒い霧と、雰囲気がよく似ている事に気づいたのだ。
「……なんだ……? あの黒い光は…………」
そう言って様子を見るユキノブ。その声色からは喜びの色が消え、焦りを感じる。
「あれは一体……⁉︎」
そう一言呟くと、ユキノブはガラスに左手をついて舞台の上を凝視し、わたしも否応なしにその光景を目にすることとなる。
明らかに普通ではなさそうなその黒い光は、オオトリの神器から出る光を完全に侵食し、魔法陣中央の装置すらも覆い尽くし、白かった光はあっという間に同じ黒い光へと変化した。
そしてそれは装置を越え、他の神器たちの光りまでもを飲み込もうとしているようだったが、他の神器達も抵抗をしているのか、侵食の仕方はまちまちだった。
明らかに様子のおかしいその現象に、ユキノブはガラスについた左手を握り、震えている。
「何かご存知じゃないですか……⁉︎ あの禍々しい輝き……!」
わたしの首を絞める腕は緩めず、そう焦った声で問うてきた。
ユキノブに禍々しい輝きと言われてわたしはもう一つの似た物を思い出す。
「……呪いの……アーティファクト…………⁉︎」
わたしの言葉に手の震えは止まり、ユキノブは再び黒い光に呑み込まれていく神器たちの光を見つめた。
そうか……アーティファクトとは人の想い、願いの増幅機みたいな物……ユキノブの、気配が追える能力とは、アーティファクトなしでそれと似たような効果を持っていたということなのだろう…………
「そんなバカな……! あの神器にそんな雰囲気は全くなかったのに…………!」
あのカボションが落ちた時の事を思い出してみるも、わたしにもそうは見えなかったと思う。
「オオトリの持つ神器の映像を!」
ユキノブがそう叫ぶと、モニターにはオオトリの持つ神器が映し出される。
すると、先ほどとは明らかに違う箇所が一目瞭然だった。
「中央の鉱石の形をした部分の色がさっきとは違うわ……!」
白っぽい虹色だったのが、今は黒っぽい虹色になっている。そしてその部分から、明らかに呪いの力と思われる黒い光が放たれていた。
そしてわずかだけれど、マクラメ部分からは白い光が──‼︎
「呪い……確かにあの雰囲気は……。
だがこれまであの神器にそんな雰囲気は全く……──!」
『全く感じなかった』と続く言葉は飲み込まれ、ユキノブも画面を凝視しているようだ。
おそらく……わたし達はほぼ同時に気づいた。
「多分……あの施されたマクラメがあったから…………」
「呪いを抑え、神器として存在できていたということか──!」
こんなところで……!
水晶龍の中にあるだろう呪いのアーティファクトだって早く解放する場所を見つけないといけないというのに……!
そう思った時、気がついた。
もしかしたらこの場所が、ソウなのではないかと────
付近で使われているアーティファクトは灯用の物のみ、このホールだってそこまで大きくはないけれど、全体的に修復して使っていないのは何故……?
窓の外に見えた廃墟、そして閉じ込められてた部屋から五百メートルは移動したけど、付近にわたし達以外の人がいるようには感じなかった。
森までの距離はわからないけれど、潮の香りから反対側は海──
もしここで二つの呪いを解放できたなら……
相乗効果でもっと大変なことになるのかもしれないけど、人が沢山生活しているところよりはマシだろう。
でも今このまま、あの呪いが解放されたらきっと何十年もこの場所には近づけれなくなる! そして、こんな場所がそう沢山あるとは思えない。なんとか……なんとか水晶龍をここに連れてくるまで──!
「中止はできないの⁉︎」
六人は神器の力を収めることが出来ないのか、黒い光に飲み込まれていくのをただ見つめているだけで身動きも取れないでいるようだった。
「あれは……一度発動すると、何かの扉が開くまで止まりません……!
術者が解放されるのは扉が開き、閉じた後……だから前回の時は跳ね返ってきた力で術者も神器も…………!」
そう言い、グッと唇を噛み締める。




