252.侵入してきた者達
「ここでしっかりと見届けようじゃないですか、あちらへの扉が開く瞬間を!」
ユキノブがそう言った瞬間、舞台横のバックヤードに続く場所から、数人の人影が入り込み彼等を囲んだ。
「何者……⁉︎」
ユキノブが驚愕の声を上げて舞台を凝視してからモニターを見やると、その侵入してきた者達がアップで映し出される。
わたしも横目でそのモニターを確認すると、見覚えのある面々が映し出されていた。
「……特殊部隊の……!」
先程……移動中に感じた微かな気配は彼等の──!
「特殊部隊……! 追われていることは把握してましたが……想像より随分と早いですね……」
あれ……でも蘇芳さんだけがいない……
そう気づくと同時に、轟音と共にこのスペースの鉄製の扉が炎に包まれ溶け落ちる。
「何やらこんな廃墟で面白いことやろうとしてるみたいだな。
まさか藍華がここにいるとは思わなかったが……」
特に驚いた風もなく自信満々で高圧的な知った声の主は、紅い地に金で和模様の入った羽織を着た蘇芳さん。
前情報でわたしがここにいることを知っていた……?
「ん……? あんたカトレイル教会のトップの方の人間じゃないか。こんなところで何やってるんだ?」
逃げ道が一気に広がった気がして希望の光、と思いたいところだけれど、蘇芳さんに助けられるのも……
「特殊部隊、火の蘇芳……主戦力がこちらに来たその判断は賞賛に値しますね」
特に焦る風もなくそう言うユキノブに、わたしは冷たい何かを感じた。
「捕縛の檻」
間をおかずにユキノブが言う。
「……!……」
すると蘇芳さんの足元からあの、わたしを絡め取った蔦がが伸びていった。あっという間に身動き取れないよう、わたしの時よりも頑丈に蔦が蘇芳さんを拘束していく。
「……うちのメンバーのアーティファクトと良く似てるが……オレにこんな物は効かないぞ?」
そう言うと蘇芳さんの懐が光り、何かのアーティファクトを発動しようとするのがわかった。
けれど────
「アンチアーティファクト」
ユキノブの冷たい言葉に、蘇芳さんのアーティファクトは力を発揮することなく光が不自然に消える。
同時使用! やはり彼も……!
「何……⁉︎」
「蘇芳さん……逃げ…………!」
彼のパワーなら、もしかしたら抜け出せるかもしれないと、力技で抜けるよう伝えたかったのだが、ユキノブにさらに首を絞められ声を出せなくなる。
「この蔦が……貴方のお仲間の物と同じレベルとは思わないでいただきたいですね……」
「雷の檻!」
「──‼︎──」
蔦から発生した電流は蘇芳さんを感電させ、沈黙させた。
「高圧でやったつもりでもやはり思った通りの威力にはなりませんね……」
その言葉から、わたしの時よりずっと強い電流が流されただろうことがわかり、横目で黒焦げになった蘇芳さんを確認し、命は無事だろうかと心臓が一瞬冷たく感じるが──
「……ぅ…………」
うめき声が聞こえ、ひとまず無事そうでホッとした。
「さて、遠隔はあまり得意ではないですが、あちらも──」
そう言うとユキノブは舞台で交戦中の彼等に左掌を向けた。
「捕縛の檻」
舞台の四隅から伸びた蔦は、特殊部隊の四人を絡め取ろうとするものの、一人、大吉さんの幼馴染だという喜光さんは何とか逃れていた。
「一人、素早い方がいらっしゃいますね……ですが……」
そう言って伸ばした手を一度軽く握り、くるりと手のひらをこちらに向けつつ指を上に向け、ぎゅっと握った。
すると喜光さんが逃れた先の床から蔦が伸び、同じように拘束されてしまう。
「特殊部隊も、大したことは無いですね……。その男も、彼等も」
四人は蔦に引っ張られて四隅に連れて行かれる。
「まぁ同時使用ができて、こんな遠くから遠隔で攻撃を仕掛けられる者もそうはいないですから対応が遅れるのは仕方ないでしょうけど……雷の檻!」
嘲笑うようにそう言うと、拘束した四人にも蘇芳さんと同じように電流を流して沈黙させた。
すると、ザザーっと通信の入る音が聞こえてきて
『お手数おかけして申し訳ありません……』
「問題ありません。それより、そろそろ時間ですので呼吸を整えて、頼みますよ」
『了解しました』
蘇芳さんとは険悪な仲だけど……大吉さんも認めるような人達をこうも簡単に……!
「……あなたも同時使用が出来るのね…………」
特殊部隊の人達を一掃した安心感からか、少し緩んだ腕に、しがみつき何とか声を出す。
「えぇ。それも時空を越えてきた者の特権でしょうかね」
何とかユキノブの持つその碧空のアーティファクトにアクセスしようと試みるも、何かプロテクトのような物を感じ、この人の意志の力を強く感じる。
「さて、あと三十秒……ちょっとしたアクシデントのお陰で退屈せずにすみましたかね」
特殊部隊の侵入で配置から離れていた面々は元の場所に戻り、再びそれぞれに用意を始めた。
時が近づくに従って、ユキノブが興奮していることが分かる。
「……ぐ……」
腕に込められる力は少しづつ強くなり、わたしは呼吸をするので精一杯になってくる。
このままでは────!
苦しさと、このまま帰りたくないという気持ちとで涙目になりながら舞台を見ると、詩織が手を上げ、それを合図として全員が神器を起動するのが見えた。
「──はじまった!」
再びユキノブの声色に狂気が紛れる。
神器から放たれるそれぞれの光は、ピンクがかったり、オレンジがかったりと多少の色の違いがあるものの、どれも眩しく輝いていた。
光は魔法陣中央へと伸びていき、吸い込まれ、六角推の装置に集まった光は真白に輝きだす。
「コレだ……この反応‼︎
この時をどれだけ待ち望んだことか……!」
光はどんどんと強くなっていき──




