251. レジン桜のハーバリウムが持つ隠された力
「そういえば……レジン製の桜のハーバリウムは何処に……?」
永久ちゃんのあの作品も、研究所から盗まれた。なのにあの六人の所にはない。
儀式には使わないのかと思い聞くと、
「それはここに」
そう言って窓から少し離れこちらを向くと、ゆったりとした服の下に隠し持っていたそれを取り出した。
「貴方がこの世界にいなかったなら、この神器があちらとこちらを繋ぐ鍵となる予定だったのですよ」
「それが……あちらとこちらを繋ぐ鍵……?」
「そうです。
この作品の中に含まれている液体と空気は封をされたその当時の物。それがあちらとこちらを繋ぐための鍵となるのです」
「ハーバリウムの液体と空気が……⁉︎」
再生の日を超えられた、そういった作品がどれだけあるのか…………
鍵となるアーティファクトの絶対数は随分と少ないだろう事が想像できる。
「コレをしばらく身につけ、儀式の際近くで発動しながら開封……叩き割る事によって、あちらへの扉を開くことができるのです」
叩き割る……!
「叩き割らねばならないのが私も心苦しかったのですが……貴女のおかげでそれをせずにすみます」
その言葉が本当なのかどうなのかわからないけれど、ユキノブの顔からはなんの感情も読み取れなかった。
「……さぁ、組み上がったようですよ」
服の下にそれを戻し、再び舞台の方へと視線を移しユキノブが言った。
見ると銀色に輝く六角推の形をした装置が魔法陣中央に完成したようで詩織と誠司が立ち上がっていた。
二人がそれぞれの位置へと向かうと、ユキノブの懐から何か音が聞こえてくる。
ピーピー、ピーピー、
ポケットらしき所から何かを取り出し、耳の近くでユキノブがソレを発動すると、詩織の声が微かに聞こえてきた。
『ユキノブ様』
「はい、どうですか? 装置は無事組み上がりましたか?」
『つつがなく。刻限がきたら始めてもよろしいでしょうか?』
「よろしくお願いします」
手で顔が隠れているのでその表情は伺えないが、その声からは喜びが滲み出ているようだった。
多分……今だ……!
わたしは思いっきりユキノブに体当たりをかました。
「……!……」
なんとかわたしのアーティファクトセットを取り返せれば……!
力の限りの体当たりで、自分もバランスを崩してユキノブの上に倒れ込んでしまうが、なんとか起き上がり拘束されたままの手で必死にユキノブのマントを避け、腰に付けられているアーティファクトの入っている袋に手を伸ばす────
「ゴホッ…………させませんよ……!」
咳き込みながらも、すかさずわたしの手を掴んだユキノブは、皮肉をこめてわたしの浅い計画の失敗を告げた。
「自ら触れに来てくれるだなんて……積極的じゃないですか……」
「……わたしのアーティファクトを返して欲しいだけよ! あなたは帰りたくとも、わたしは帰りたくないから……!」
ぐぐっと掴む力が強くなり、わたしは握っていた袋から手を離してしまう。
「……!……」
「それは残念です……」
そう言い、座り込んでいたわたしの手を掴んだまま立ち上がり引き上げると、窓の方を向いた状態で後ろから腕を回され首を軽く締められる。
「……ぅ……!」
「ここまで接近している必要もあるかどうかわかりませんが。
これ以上余分なことをされるのも困りますので、刻限までこのままでいてもらいますよ」
苦しさに、少しでも息がしやすいようにとユキノブの腕を掴むも、その力が緩むことはなく、
「なに、刻限はすぐですから……」
そう言って左手で懐から時計型アーティファクトを取り出し、発動させる。
指し示す時刻は七時五十五分。
「あと五分です」
そう言って、クククク、と心の底から嬉しそうに笑う。
「…………!」
いやだ……帰りたくない…………!
大吉さん────!




