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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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249. 転がり落ちたレジン製カボション

「これは……確かに……! 先ほどより反応が桁違いだな……!」


 全員が驚愕し力を収めると、オオトリの持つマクラメブレスの一部が千切れて、中央 に収まっていたレジンカボションが転がり落ち、わたしの方へと転がってくる。


「おっと、すまない……!」


 このレジンカボション…………


挿絵(By みてみん)


 捻ったワイヤーで形取られたハート型のような葉冠を後ろに、中央にある小さな白っぽい鉱石レジンには虹色がかかっていて、その下にはおそらくチャトンのスワロ。背景は宇宙模様で全体のバランスも良く、引き込まれそうな逸品だった。


「心配いりませんよ、記録によるとこの神器はもともと、このメインの部分だけだったそうです」


 わたしの目の前で止まったそれを、ユキノブが手に取りオオトリの方へ行くと、千切れたマクラメ部分を受け取って詩織の方へと向かった。


「マクラメを施したのは、再生の日以降のマスターで、おそらく使用しやすいようにする為。

 多分カボション部分の強い力に耐えられなかったのでしょう。

 カボションだけでも問題ないと思いますが……詩織、急ぎ修復をお願いできますか?」


 両方を詩織に差し出すと、詩織は受け取りながら言った。


「応急処置しかできませんがよろしいので?」


「構いません。今確認しましたが、カボションだけの輝き具合も他の神器に劣っていませんでしたから」


 この(ひと)は修復ができるのか。マスターでもあるのかな、と思いながら見ると手際良くカボションを包み直し、懐から出した針と糸で補強していた。


「これで、お分かりかと。わたし一人ではここまでの増幅にはなりませんので」


「なるほどな……。あんたは()()()()()()()んだよな?」


 矢野の言葉に、ユキノブは肩をすくめて両手を上げ、言った。


「私一人の力ではここまでの増幅にはなりませんよ」


 本当に? わたしがいるだけでこんな現象は……


 ユキノブをじっと見ると、彼の含み笑いにやはり何か仕掛けはしたんだ、と気づく。


 だって、彼は矢野の質問には答えていない。

『何もしていない』とは言っていないのだから。


 周りがそんなやりとりをしているうちにも修復は完了したらしく、それは外側からは元の状態と変わりなく見え、彼女の腕も相当な物だと判明する。


「これで儀式の間くらいは保つかと」


「ありがとうございます、相変わらずいい腕をしてますね」


 ユキノブがそれを受け取り満足そうな顔をして礼を言うと、詩織は表情は変えずに頬だけ蒸気させて答えた。


「いえ、そんな……」


「他に、不具合などありませんか?」


 オオトリにそれを渡しながら他の者に問いかけると、全員が大丈夫だと答え、一同は儀式を行う場所へと移動した──


 狭い通路を抜け、着いたそこは……おそらく舞台袖と呼ばれる場所。

 舞台の方へと出ていくと、白い線で大きな魔法陣が描かれていた。


「私と貴女はこちらです」


 言われて見ると、客席最奥の方に少し高い位置に大きなガラスのはまっている個室部分があり、そこも妙に綺麗でリフォームされているようだった。

 けれど舞台とそこ以外、客席も天井部分もボロボロで、廃墟に新品な部分が入り混じってなんとも不気味な印象が否めなかった。


 こちらですとユキノブに連れていかれたのは……そのリフォームされた部分。


 少し高い位置にあるそこは、同じくリフォーム済みだろう階段で登っていくようだった。


 先にのぼるよう促されるがわたしの足取りは重く、その閉じられたスペースに入りたくない、と脳も体も言っていた……


「昔は幼い子連れの方々が他の客の目を気にすることなく楽しめるよう作られたスペースなのでしょうが、今の私達にもちょうど良い場所ですね……」


「…………!…………」


 扉を開かれるけれど、ユキノブのその言葉と個室のような場所で二人きりになる事に恐怖を感じて、中に入ることを躊躇っていると、


「今ここで何かをする気も時間もありませんから……安心して中に入ってください」


「…………」


 あの盗賊のところでの所業は一体なんだったのかというほどに、ユキノブから執着のような物を感じず、怪訝に思いながらもゆるりと中へ入ると、すぐにドアを閉じ一人先に舞台の方を見にガラス窓の方へと行く。


 ドアが閉まった瞬間に、何か圧力のようなものを感じたので、鍵を持つ者しかドアが開けれなくなったのだと直感のようなモノで感じ、どうやって抜け出せるかを考え始める。


「舞台まで……結構距離があるみたいだけど……大丈夫なの?」


「えぇ、問題はありません。

 一説によると、距離にして数キロ先でも扉は開きます。貴方の元に──」


 なんとかユキノブからわたしのアーティファクトを取り返さなければ……


 このままだと術式とやらが成功したら、あちらの世界に帰されることになってしまう──!


 何か使えるものはないかと室内を見回し、わたしは何か違和感を感じた。


 腰の高さまである壁の上は()()()()()()()()()がはまっていて、内装もよく見るとまるでそこだけ時間が戻っているかのような感じがする。


 何故ならば修復する必要もない客席用の椅子、部屋の角、天井部分からぶら下がる、舞台がアップで映るモニターまでもがまるで新品のようだったから────


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