243.わたしはそれを紛い物とは思わない
でも……いつどこで出会って?
クゥさんがこちらに来た時もあちらに帰った時も大吉さんのすぐ近くだったはず……
そして大吉さんはこの人を知っているわけではないようだった。
時々出ていたという散歩中かとも考えるが、大吉の所から消えたというその直前まで持っていたはずの捕縛アーティファクトを持っている理由が……。
混乱しそうな頭を整理するためにも疑問を一つづつ解決したく、わたしはとにかく口を開いた。
「どうしてそう思うの……?」
「わたしにも使用中でないアーティファクトの持つ光が多少見えるのですが、貴女の所持していたアーティファクトは明らかに新品の活き活きとした光なのですよ」
左手を、マントを開くように少し持ち上げ、チャームを持つ手で腰にぶら下げている白いベルベットに金糸の刺繍の入った袋を指して言う。
そこにわたしのアーティファクト達が全て入れられているのね……!
微かな力も感じないということは、あの袋も力を遮断するような力を持つのか……
「特に、ドラゴンブレスの輝きを持つアーティファクト。こちらは神器にも匹敵する力を持つようで思わぬ収穫でした」
作ったばかりのドラゴンブレスライカの首飾り……!
水晶龍と一緒にしておいたら勝手に飛び出しちゃうから、と収納袋に入れずに別にしておいたのが仇となったか…………!
「調査してこちらの方が能力が高いのなら、こちらを使わせて頂こうかと思っているくらいのパワーを感じます」
それは水晶龍か、アーティファクトの同時使用ができる人間にしか扱えない物のはずだけど、黙っておこう。
「まぁ、それはおいておいて。
これらは、こちらの世界で一から作られたものと明らかに違う。貴女にも見えるでしょう? こちらのレプリカの資材から作られる物の紛い物特有の曇りが」
碧空のチャームを懐に戻しながら、ユキノブは続けた。
こちらで一から作られるレジン作品のような物のほとんどが、あの砂のような物を使って作られるのだから、知る者、見える者が見たのなら、この世界のものではないとすぐに分かるだろう……
けれど、わたしはそれを紛い物とは思わない…………!
「こちらの資材で作った物はどうしてもあの時代の物よりも力が劣ってしまう。碧空からその情報を聞いていたから、こちらではもう二度と手に入れることのできない貴重な資材を使ったのでしょう?」
それは知らない。クゥさんの手記にもそのような記載はなかったし、わたしはそんな風に思っていない……欠片も。
が、ユキノブはわたしが黙っていることをいいことに、話を続けていく。
「ある特殊な鑑定アーティファクトで見てみたら、ドラゴンブレスも、他の全てのアーティファクトからも、微かにですが光の糸のような物が貴女に向かって伸びていて、間違いなく貴女が製作者であるとわかりました。
だがその施された技術は碧空の物に施されていたのと同じであちらのハンドメイダーと呼ばれる者達が絶対にやらないようなコト……」
うん、確かにそれはそう。使用者を限定するためにアレを作品の中に入れるだなんて。
普通のハンドメイダーなら絶対にしないと言い切れる。
「あちらでか、こちらでかは知りませんが、間違いなく碧空と繋がりがあるとわかるに決まってるじゃないですか」
おそらく……その顔は。側から見たら爽やかな笑顔に見えるのだろう……。
そしてその神々しさに見る者を釘付けにするのだろう。
けれど、歓喜と欲望が渦巻いているようなものを感じ取ったためか、わたしにはいやらしい笑顔にしか見えず、嫌悪感が倍増するだけだった。
「碧空がこちらで見つけ使用していた技術の物を、碧空と似た雰囲気を感じさせる貴女が持っている。
盗賊のアジトで見たあの瞬間、心が沸き立つのを止められませんでしたよ……この私が…………!」
両手を握りしめ、興奮を抑えているのかその手は少し震えていた。
狂気じみたものまで感じはじめ、その背後に黒い影が見える気がする。
何故そこまで興奮しているのかがわからない……!
碧空の使用していたギミックをわたしが使用しているから、確かに碧空のクゥさんと繋がりはあると言えるだろう。
けれど、それになんの関係があるというのだ……扉とやらが開いたというのなら、勝手に帰ればいいじゃない……!
でも──
その話の先に重要な理由があるのだろう……
わたしは嫌悪感からくる吐き気を必死に我慢し、一番聞かなければならないだろう事を質問をした。
「それで……何故わたしをここに…………?」
吐き気を我慢しながら睨み、見上げるわたし。
「貴女を連れて来た理由は……」
ユキノブは握っていた手の力を緩めて下ろし、先ほどとは打って変わって無感情な目で私を見下ろして言った────




