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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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242.目が覚めたらそこは

「……う…………」


 重たい瞼をゆっくり開くと、目に入ってきたのは壁紙が剥がれボロボロになっている壁と、高い位置にある小さめな窓。窓の外は暗く、今は夜……なんだろうか……。


 少し首を動かして反対側をみると、おそらく鉄製の扉があり、その横の壁に設置されているアーティファクトランプは、長い時間保たせるために出力が抑えられているようで、とても暗い。


 ここは…………?


 ぼぅっとする頭でここがどこなのか思い出そうとするけれど、どうにも思い出せずランプを眺めていると、少しカビ臭い香りが鼻につき、眉をしかめた。


 なんとなく起きあがろうと体を動かすと、手首にあちらの世界でもリアルにはオモチャでしかお目にかかったことのない手錠がつけられていることに気づいた。


「……⁉︎……」


 何で手錠が……⁉︎


 両手を使ってなんとか起き上がると、髪ゴムに変化させていたアーティファクトもただの髪ゴムも奪われているようで、解けた髪が湿気で体にまとわりついてくる。


 付近にアーティファクトと呼べる物がそのランプしかないのか、少し心許なく感じてしまう。


 見回すと、両側の壁には割れた鏡が並び、その上の部分には一定の間隔にならんで割れた電球があった。


 この雰囲気はドラマや漫画で見た覚えがある気がする。


「楽屋…………?」


 見回すと自分は履いたままだけど、靴を脱いで上がるためだろう段差がドアの方に見えた。


 部屋の中央に、埃っぽくはない薄い布団の上に寝かされていたようで、どれくらい眠っていたのか、布団が薄かったからか、体のあちこちが痛い。


 大吉さんは……?


 もう、いつも一緒にいるのが当然のようになってきた、彼の姿をキョロキョロと探しながら、だんだんと意識を失う前のことを思い出してきた。


 そうだ、藤騎くんから奪われた十字架を追って、神器を盗み出した奴らのアジトっぽい所に入り込んだんだ……。そしたらユキノブがやってきて…………


 そこまで思い出した時に、ある一つの違和感にわたしは気づいた。


 割れた電球……⁉︎


 これまでこの世界で、電球を見たことはなかった。明かりは全てアーティファクトか蝋燭やオイルランプ。


 そこにあるのは割れて使い物にはならないだろうけど、間違いなく電球で…………


 ここは……再生の日の後、人の手の入っていない場所…………?


 その時、扉の鍵が開けられる音がして、わたしは身構えた。といっても手錠をはめられ、アーティファクトもないような状態では何も出来ないだろうけど……


「おや、もうお目覚めですか?」


 扉が開くと同時に空気が流れ、このボロボロとした場に不似合いな、白く美しく、淡く光る衣装のマントをたなびかせながらユキノブは入って来た。


 パタリと扉が閉じ、盗賊のところで捕まった時の事が頭をよぎり身体が強張る。


 髪ゴムに擬態させているアーティファクトまで奪われている今、あの時より状況は悪い。


 恐怖と怒りと、色々なものが混ざって声も出せずに睨みつけるわたしを、ユキノブは嬉しそうに見下ろしながら口を開いた。


「そんなに警戒しなくても、今は何もしませんよ……ここはもう儀式を行う場所ですし。

 表の儀式にも顔を出さなければならなくて時間もありません……少し話をしに来ただけです」


 副教祖と呼ばれるくらいの地位にいるのなら各地の儀式や催物にも出かけたりするのだろう。


 だが、時間があったら何かするのか。一刻も早くこの場から逃げ出さなければならないことに変わりは無さそうだと、警戒の色を薄めることなくわたしは睨み続ける。


「ところで、こんなに早く目覚めるということは……やはりこの状態のアーティファクトでは完全な威力には程遠いようですね」


 そう言って、懐から何かチャームタイプのアーティファクトを取り出し見せてくる。


「これの作者が誰だか分かりますか?」


 作者を当てさせて何がしたいのか、そう思って見てみると──それは、弱いけれどどこか凛とした雰囲気の光を纏っている物だった。


「……それの……?」


 緑の唐草模様に赤いスワロフスキーチャトン(vカット)と雷の形をした金属片の入ったチャーム。けれど、一度欠けていたのだろうか、唐草模様の一部分が不自然に途切れ、後から埋められ、修復されたような雰囲気を感じる。


 この唐草模様……それとこの雰囲気…………


「……碧空……作品…………?」


「よく、ご存知で」


 まるでわたしがそれを碧空作品だと分かる事が当然であるというようにユキノブは言った。


「これは少し特殊な経緯で手に入れた物で、手を加えなければ神器と同等の力だったのですが……。

 特定の人物しか使えない細工が施されていて。研究を進めていき、どうにもできないと結論が出て神器代わりにすることを諦め。つい最近ようやく誰にでも使えるように改造が完了したのですよ……」


 嬉しそうな顔をしてユキノブは続けた。


「どういった関係かは知りませんが……やはり貴女もこちらに来た後のあの女と、深い繋がりがあるようですね……」


 棒人間の指輪から、向こうでの繋がりがある事は丸わかりだろう……けど、深い繋がりとは…………?


 ユキノブが何を言いたいのか理解できずに黙りこくる。


 確かにわたしはこちらに残されていた碧空のクゥさんの手記からその技術を知り使用した……


 ってちょっと待って……あの女……?

 もしかして盗賊のとこでも言っていたあの女って碧空のクゥさんのこと──?!

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