240. (外伝8) 明かされる秘密
おそらく双葉には、大吉が今思いついた案の事もわかっていた。だが、上部の冷静さだけでなく、もう一つ深いところまで冷静になれと示すために大吉に問うたのだろう。
満足そうに頷くと、花子の方を見て頼み事をした。
「花子、政府のバカどもを通じて教団の情報を回してもらえ。
あと、大吉の言うように、聖地の過去の情報を提供してもらってくれ」
「わかりました」
花子が拝殿から出て扉を閉めると、緊張の糸のようなものが一度切れ、再び張られた感覚がする。
「扉の開閉で自動に張られる結界アーティファクト……?」
花子を目で追っていた藤騎がそう呟いた。
「そうだ。ここはちょっと特別な場所だからな」
大吉の言葉に、双葉が嬉しそうに藤騎を見て言う。
「ほっほ、どうやら追跡アーティファクトは良い主人を得たようじゃな……」
褒められ照れて、藤騎は黙ってしまう。
「さて……わしでもまだ追えるか……出来るところまで視てみよう…………」
そう言って手を合わせ目を瞑り、静かに呼吸をする。
すると、そこにいる全員が感じるほどの強い何かが双葉から滲み出す。
「何故……藍華が連れて行かれたのか────。
鍵…………じゃな…………」
「鍵……?」
双葉の呟きに大吉がおうむ返しで問う。
「藍華が何か……儀式の鍵となるようじゃ…………」
「確かに藍華は色々規格外で凄腕なんだろうが……それだけで儀式の鍵のような役割になるのか……?」
アグネスの問いに、大吉は迷うような顔をして視線を一度落としてから双葉を見る。
「……お前が決意したのなら話すがいい……藍華もダメとは言わんじゃろ……」
その言葉を聞いて大吉の覚悟は決まる。
「同じようにクゥもな……」
アグネスとフェイは、何故ここでクゥの名が? と疑問顔で大吉と双葉を見ている。
自ら明かすつもりはなかっただろう藍華とクゥに申し訳なくは思うが、アグネスとフェイの二人に話すことに抵抗はなかった。
二人はクゥと面識もあるし、護衛の仕事もこなす大人だ。
だが、藤騎にまで同じ秘密を背負わすのかということに関してはまだ迷っていた。
「藤騎は…………」
「僕は特殊部隊入隊の最年少記録を塗り替えるつもりなんだ」
大吉が何かを言い切る前に藤騎が述べた。キッパリと。
「今ここにいる事は僕にとっては私情じゃない。仕事だ。
だから何を聞いても知っても、口外はしないと約束するよ」
「ほっほっほ……大吉より肝が座っておるようじゃない
。
藤騎よ……その気持ちと自信、使用方法を間違えぬよう気をつけるんじゃぞ? もし迷うことがあるならば周りの信用のおける者を頼ることを忘れるな」
真剣な双葉の表情と声に、藤騎はゴクリと唾を呑み込み頷いた。
「わかった……勝手に話してしまうこと、藍華とクゥさんには申し訳ないが、ここまで協力してもらっててこれ以上黙っておくこともしたくないから……。
話しておく────」
そして大吉は藍華がクゥが別の世界の過去からやってきたらしいという事を話した。
「「…………」」
「大吉……すごい人と知り合いなんだね……碧空って…………」
アグネスとフェイは言葉を失い、藤騎はその純粋さでただただすごいと思ったようだ。
「いまいち……並行世界の過去から来たとか、ピンとはこないんだが……何か物凄いモノの一幕に入り込んだ気がするな……」
「ちょっと待て、私の頭は激しく混乱中だ……!
アーティファクトが存在しない時代というのはわかる。再生の日以前もそうだったと歴史で習ったから……でも並行世界とかその過去とかって…………⁉︎ じゃぁ碧空って…………⁈」
両手で頭を抱えるアグネスは何かが引っかかって思考が回っていないようだ。
「深く考えるな、アグネス。
ちょっと特殊な地域からきた藍華とクゥ、二人とおそらくその副教祖が同郷で。
そこに戻るのに神器が複数と藍華が必要だっていうことだ」
「……なんとか……? 理解した…………」
異世界とか並行世界とかいう項目をすっ飛ばした説明で、ようやくアグネスの混乱は治ったらしく。肩に入っていた力がフシューと抜けてひとまず落ち着いた様子となる。
「でも……じゃぁそのユキノブとかいう福教祖も色々飛び抜けたスペックの持ち主なんじゃないか……?」
藍華もクゥも、アーティファクトに関しては規格外の能力を持っているという共通点がある。
アグネスが口にした疑問は大吉も考えてはいた。
「可能性がないわけではないが……やつはそういうのとは違う気がするんだ……」
「少なくともマスター職ではないだろうな。あやつの気配も手も、物を作る者のそれではない」




