236. (外伝4)磁場
大吉は暴れる水晶龍を押さえながら出入り口の警備員に指輪を返却し、急ぎ外に飛び出した。
相変わらず警察でごった返している人の波をすり抜け、三人の待つ神社へ向かうために。
敷地内から出ようとしたその時、歓喜の混じった騒めきと共に前方からその人物たちはやってきた。
(特殊部隊……!)
「またお前か……! なんでここにいる」
先頭をきってやってきた赤い髪の男、蘇芳が外野をかき分け大吉の目の前に立った。
「忘れ物を取りに来ただけだ」
(特殊部隊は神器を追っていたはず、ここにいるということは場所が判明したか一時引き上げてきたか……)
平静を装う大吉に、蘇芳はイラつきを隠すこともなく聞いてきた。
「あの女……藍華はどうした?」
ズキンと痛む胸を必死に隠し、大吉は聞き返す。
「……お前こそ奪われた神器の捜索はどうだったんだ……?」
おそらく神器のあるところに藍華もいるはず、もしコイツから神器の情報を得られるならば、と。
しかし蘇芳も表情を動かさないため、何も読み取れず大吉はカマをかけてみた。
「俺が手を貸さなきゃいけなくなる前に見つけることだな……」
静かな口調で言ったセリフに、蘇芳は少しだけ嫌そうに表情を動かした。
「……そうだな。そしてお前は早いところ藍華に愛想尽かされろ。
オレが喜んで迎え入れるから」
挑発的な顔をしてそう言い捨てると、バサっと羽織を翻し待機所のある方へ蘇芳は向かった。
「あーぁ。なんでかしらね? こんなに良い女が近くにいるのに。
なんでか彼はあの子に夢中みたい」
「なんでか……俺の方が知りたいよ……」
なんとも苦い気持ちで蘇芳の後ろ姿を見送りながらそう答えると、
「貴方もみたいだけど」
半ば呆れたように紅梨は言った。
「…………」
「なんなの? あの子。良い男を引き寄せる磁場なの?」
「……紅梨……」
「あなたも。らしくないわよ、大丈夫?」
いつもならば、のらりくらりと躱すだけの大吉がカマをかけたことを、紅梨は不自然だと気づいたようで、問いかけてきた。
「…………」
難しい顔をして黙りこくる大吉を見て、何かを感じたのだろう、紅梨は赤い髪をフワリとなびかせて吐息が大吉の腕にかかるほど近づき、小声で呟いた。
「詳しくは聞かないしこちらも言えないけど、らしき場所の目処はついたそうよ」
そう言うと振り向きもせずに蘇芳を追いかけていく。
その後ろ姿を目で追いながら、大吉は考えた。
ああ言っておけば、蘇芳は自分に負けまいと躍起になって神器を探そうとする。
自分は自分でアイツより早く、と必死になる。
(多分、コレが俺たちの協力の仕方なんだろう……)
視線を一度落とし今度は向かう先、神社の方を見て紅梨の言葉を思い出し反芻する。
「目処はついたそう……?」
二手に分かれたもう一方のグループが何かを見つけた、感知したということだろうか?
そちらには巫女の蝶子もいる。可能性は高いな、と思い自分も急ぎ神社へと向かった。




