235. (外伝3)龍石の欠片のビーズ
「叔父さんに頼みたいことがあるんだ」
「……なんだ?」
「藍華の忘れていったアーティファクトセットをもらえるか?」
大吉は紙に書かれた藤騎の文字に丸をつけ、矢印を書き『追えるかもしれない』と書き込みながら言った。
藍華はアーティファクトを忘れていってはいない。研究所に置いていったのは田次郎がかき集めてくれた資材類と今朝第一研究室から渡してもらった五人衆のアーティファクト。
「……あぁ、アレか」
「あと、ばーちゃんのとこへの札を二枚」
「わかったすぐ持ってこよう……一本タバコでも吸って待っててくれ」
田次郎は大吉が何をしようとしているのか、すぐにわかったようで、頷くと今まで書き込んでた紙の上に開封済みのタバコの箱を置いて立ち上がる。
「これ、いいタバコじゃないか。二本くれ」
大吉は書き込みをした紙を勢いよくくしゃくしゃにして灰皿の上に置き、手持ちの火のアーティファクトで火をつける。
「しょうがないな、全部持ってけ」
紙はあっという間に燃え、残り火で大吉がタバコに火をつけると、
「じゃぁすぐ持ってくるから……ここで待ってろ」
そう言って部屋のアーティファクトを解除して出ていった。
「あぁ…………」
大吉は、滅多に吸わないタバコを口へと運び、申し訳程度に口をつける。
軽く吸うと不健康な煙が肺を満たす感覚がわかる。
今の自分の心境を如実に感じさせてくるタバコに独り言を投げかけた。
「わかってるよ……焦っても何もならない……
考えろ……。考えるんだ…………」
半分以上残ってるタバコを灰皿置き、燃えるがままに任せ、膝に肘をついて祈るように手を組み目を瞑った。
(五人衆のバラバラになったアーティファクトの繋がりが……まだ残っているなら……藤騎の追跡アーティファクトで追えるかもしれない…………
俺にはもうそれくらいしか…………!)
どれくらいそうしていたのだろうか、応接室の扉が開き田次郎が戻ってくると、タバコはもう少しで皿から落ちるくらいのところまで燃えていた。
大吉は慌てて短くなったタバコを灰皿に押し付け火を消し田次郎を見る。
「まったく……なんて顔してんだ、お前…………」
大吉のその様子に、田次郎は言った。
言われて少なくとも眉間に皺が寄っていたことに気づいた大吉はガシガシと左手で額を擦り、そのまま自分の目を覆って動きを止める……
「……酷い目にあわされているかもしれない……そう考えると…………」
脳裏に盗賊のアジトで藍華を見つけた時のことを思い出す。
「短い間に…………随分と入れ込んでるな……。
まぁ……俺はあの子ならば反対しないぞ」
「な……何をだよ…………」
大吉は左手を顔から離せなくなる。
「色々だよ。
……早くいけ。双葉ーちゃんのところにも顔出してからいくんだろう?」
そう言いながら持ってきた感知阻害タイプの刺繍が銀糸で入った袋を大吉の前、テーブルの上に乗せる。
「中に全部入ってる。役に立つといいな……」
「……ありがとう」
ようやく手を下ろせれた大吉は、何かを決意したような顔をしていた。
「全部終わったら宴会でもできるといいな」
「あぁ……時間があったら、な」
そう言って立ち上がり、田次郎の持ってきた袋をポーチに押し込む。
「あ、あとコレも忘れてってたぞ」
そう言って田次郎が大吉の手をとって乗せたのは、艶々とした黒いビーズ。
「これは……!」
それは龍石の欠片から藍華が作っていたビーズだった。
大吉がすぐさまそれを収納袋に入れると、眩い光と共に、水晶龍がその半身をのぞかせた。
…………きしゃぁああああ‼︎
キョロキョロとしてから大吉に視線を止め威嚇する水晶龍に、田次郎の目は爛々と輝き出す。
「大吉……それは…………!」
「龍石のとこにいた水晶龍だ。龍石の助言もあって藍華についてきたんだが……」
水晶龍は、どうやら藍華の事が気に入っているらしかった。そして匂いを嗅いで双葉ーちゃんを識別しているようだったと藍華が言っていた。
(コイツも動けるなら……!)
「おい水晶龍! いくぞ! 双葉ーちゃんのとこ!
おじさん、ありがとうな!」
ガバっと立ち上がり、何か言いたげな田次郎をそこに残し大吉は応接室から出ていった。




