234. (外伝2)大吉、田次郎との筆談
侵入したアジトから離れた大吉達四人は、十五分後には研究所近くにある大きめの神社に着いた。
「フェイお兄ちゃん。もう降ろしてくれて大丈夫だよ」
子供の足では大人のスピードについていけないと、フェイに背負われてきた藤騎が言う。
身代わり護りで治癒しているとはいえ、大事をとって大吉の代わりにフェイが藤騎を背負ってきていたのだ。
藤騎はありがとうと言って、ストンとフェイの背から降りた。
「俺たちはここで待ってればいいのか?」
「あぁ。藤壱さんの知らせからすると、警察がウヨウヨいるだろう研究所にに藤騎は連れて行かない方がいいだろうしな……」
大吉は、ひとまず藤騎が無事であることを藤壱に連絡するためと、これからしようと考えている事のために、田次郎と連絡を取ろうとしているのだ。
「藤騎を頼めるか?」
「任せとけ」
「何かあったら連絡はコレで……頼む」
耳につけた藍華の作ったイヤカフを指しながら大吉は自分の気持ちを飲み込んだ。
「そういえば藤騎、追跡は…………もうできてないんだな……?」
大吉の問いに、藤騎は眉を寄せて泣きそうな顔をして頷いて言う。
「じいちゃんだったらきっと出来てたんだろうけど……アンチアーティファクトとかいう結界を張られた時に……完全に追跡の糸を切り離されちゃって…………」
「わかった……。大丈夫だ、藤騎はよくやった。神器を奪っていった組織のことが少し分かったしな!」
大吉はしゃがんで藤騎と目を合わせて言った。
「できるだけ早く親父さんのところに戻れるようにしような……」
大吉がぽふっと藤騎の頭を撫でてから立ち上がると、アグネスが大吉にハッパをかけてきた。
「じゃぁさっさと行ってこい! 藍華だって待ってるはずだ……お前を……」
「あぁ……すまない! 行ってくる!」
研究所前のカフェは十七時で閉まっていたはずだが、どうやら店の者が事情聴取を受けているようで、そこも警察署員たちに囲まれていた。
それを横目に建物内に入ると、案の定警備の者に止められる。
「お前! 研究所員じゃないだろう、今ここは立ち入り禁止だ!」
「緊急の報告だ。第一、第三研究所へ。証はこれだが、それでもダメなら第一の藤壱係長か第三の田次郎副署長を呼んでくれ」
大吉の言葉に、警備員たちは何やらコソコソと耳打ちし合い、大吉に1つの指輪を着けるよう言って渡した。
「所内にいる間はコレを外すな。外した時点で警察に逗留、事情聴取を受けることとなる」
「出る時にはここで返せばいいのか?」
「そうだ」
「了解した」
見てすぐ大吉にはそれが、位置把握と盗聴するだけの物だとわかったので、快く承諾し着けた。すると身体検査もなく所内へと通される。
「所有アーティファクトの検査くらいした方がいいんじゃないか……?」
思わずポツリとつぶやくものの、そんな口出しは余計だろうしこちらも時間がない。と、大吉は先を急いだ。
「とりあえず先に藤壱さんのところへ行くか……」
両研究室は三階にあるので、上階に向かう階段の方へ走って行くと、大吉は突然呼び止められた。
「大吉!」
「叔父さん⁉︎」
一階のそこには応接室があり、大吉はそこへと連れ込まれる。
「ちょうどいい、叔父さんにも相談したいことが……」
言い始めると、田次郎はドアを閉め何かのアーティファクトを発動させた。
「ちょっと待て、とりあえず座れ」
そう言いながら一枚の紙とペンを応接用テーブルの上におき、紙の端に何かを書き込み見せてきた。
『盗聴されてることは知っている。藤壱から連絡を受けた。藤騎が警察の捜索対象に入っている。とにかく連れて逃げろ』
「お前の要件はなんだ? 藍華が見えないようだが…………」
「…………」
大吉は紙へ返事を書きながら受け応える。
『わかったとりあえず連れて行く』
「藍華は……連れ去られた……何やらこれまで見たこともないアーティファクトでその場から消えて……助けに行こうも場所が分からなくてな……」
「藍華を……? 一体何者で何のために……?」
『カトレイル教副教組、理由は……不明』
「わからない……」
大吉の手も言葉もそこで止まり、その表情から田次郎は何かを読み取った。
「大吉……お前双葉様の所へ行け」
『カトレイル教のこと、双葉様に聞いてみろ。そっちからも何かわかるかもしれない』
「あぁ……そのつもりだ……。でもその前に叔父さんに頼みたいことがあるんだ」




