231.小競り合いと無効化
「アルジズ!」
結界はわたし達を覆って守ってくれる。が────
このままでは……打つ手が……!
見ると、詩織は目を瞑ったまま、こちらも見ずに水の鞭を操作しているようだ。
オート追跡機能でもついてるのか、それとも気配を追われているのか、分からないけれど、何かとても嫌な予感がする……!
アルジズが消え、水の鞭が再びこちらに向かう。
防いでいるだけでは、埒があかない。
何とかドアに向かって攻撃を……!
「風よ!」
大きな音が出ればアグネス達も気づいてくれるはず、と水の鞭を切り刻みバラバラにし、その勢いを殺さぬようドアに向けて風をコントロールする。
だが────
「水の箱!」
目を瞑ったままの詩織が叫ぶと切り刻まれた鞭はすぐさま消え、代わってドアの前にまるで巨大な水槽のような水量の水の箱が現れ、風は勢いを殺され水の中に空気の泡を走らせただけでドアには届かなかった。
「⁉︎」
こんな水量を一体どこから⁉︎
この部屋内に水道のような物は見当たらず、あったとしても壁の向こうとか、そういった隔たりがあるとこの時代の人は水を呼び寄せることは不可能なはずなのに、と思った所で気がついた。
彼女のコルセットから伸びるチェーンにぶら下げられているアーティファクト達の中で一際強く光る子に。
そうか……あの腰から下げている……フェイの酔い覚ましの水入りのアーティファクトによく似たやつ、あれが彼女の水を操るアーティファクトで、そこに大量の水が入ってるのか! 蓋かビーズ部分に電池のギミックも付いてそうね……
わたしが、あの水の箱をなんとかしなければと、攻撃を仕掛けるも、水の箱は自由にその形を変えて詩織を守り、ドアに向けて攻撃するも水はまた形を変えてドアを守った。
そんな決め手にかけるやりとりをしている間にも、大吉さん達の交戦は続いている。
わたしが目潰しの光を放った時、大吉さんは背を向けていたため、目を焼かれることはなく、オオトリは少し影響を受けたようで動きが鈍っているようだった。
「お、もう赤い刃が出せるのか! あんた回復が早いな……!」
オオトリよりも動きが鈍い様子な誠司の手には再び赤い刃が握られていて、大吉さんはオオトリのナイフを受けながら言った。
今は雷を溜めている最中なのか、大吉さんの手にある刀は、黒い雷が時折パリッと音を発して見えるけれど大きく伸びようとはしていなかった。
獲物の長さに差がありすぎで、オオトリは切りつけた後大きく飛び退き距離をとってまた大吉さんの隙をみて懐に入り切り付ける、という動きを繰り返しているようだった。
オオトリが退き、すかさず赤い刃を携えた誠司が大吉さんに向かっていく。
詩織と小競り合いを繰り返しながら、わたしは大吉さんの刀の状態に変化を感じ取った。
大吉さんの黒雷の刀──!
その黒刀にどんどんと貯まっていくエネルギーから、おそらくこの部屋内の人間全員を戦闘不能に出来るくらいの力を貯めているのだと気づき、それに向けて心づもりをしておくことにする。
大吉さんは赤い刃を避けながら黒雷の刀で絡め取り、ユキノブの方に弾くように飛ばして、誠司の鳩尾に蹴りを入れる。
消えることがわかっていたのか、ユキノブは微動だにもせず、赤い刃は届く直前にフッと消えた。
ドアの方に蹴り飛ばされた誠司に変わり、オオトリが動いて大吉さんと対峙し、ナイフを構える。
彼はまだアーティファクトが使えないようだった。
その時、今まで静観していたユキノブがオオトリに声をかけた。
「オオトリリーダー、生身でも戦えますよね?」
「もちろんだ」
オオトリは大吉さんと対峙したままそう言った。
「詩織、誠司、例のものの使用を許可します。急ぎ起動しなさい」
その言葉の後、詩織はこちらに向けて苦無のような形の水を飛ばしてすぐ何か別の物を起動する。
意識的に飛ばした物を残すことも可能なのか……!
アルジズでそれを防いでいる間に、彼女の腰のアーティファクトの一つが一瞬だけ強く光り、またすぐに水のアーティファクトで大きな水の塊りを出現させた。
わたしからは見えなかったけれど、誠司もおそらく同じようにしていたのだろう、詩織が発動させた物と似た気配のアーティファクトの力をそちらの方からほぼ同じタイミングで一瞬だけ感じた。
一体何を…………
その間ユキノブは応接テーブルの上にあった結界発動のランプの入れ物の中に入っていたパーツを取り出し別の何かを入れていたようだ。
パーツが取り出された瞬間、アーティファクト達自身の光が戻ってきて、わたしには部屋の中が一段明るく感じられる。
詩織が水の箱を再び出現させた直後、ユキノブは二人を一瞥し、新たに入れた何かを発動させた。すると────わたしの張っていたアルジズが、すぅっと消えてしまう。
コレは……!
「何……⁉︎」
チラリと振り向くと大吉さんの黒雷の刀の刀身が揺らぎ、消えた。
アーティファクト無効化……⁉︎
と、思いきや。大吉さんと対峙している誠司の手のアーティファクトは変化がなく、詩織のアーティファクトも光を失ってはいない。
「いったいどういう──」
大吉さんの驚愕の声に続いて、その二人の共通点に気づいたわたしは──
「……まさか────!」




