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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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229.繋がる点と点

「……利害の一致、ですよ。

 我々はあの場所を新たな聖地とするために神器を集め、そこである儀式を行いたい。

 その儀式を、神器を発動させた場所だという事実が欲しいだけなのです。

 我が教団の本拠地のように。

 ただ我々だけではそこまでの神器を集めるのに何十年もかかってしまう。なにせこの国では神器は神社、仏閣の管理するところにあり強固に守られているので……」


 神器を複数使う儀式……それは一体どんなものなのか…………


「以前も一度だけ聞いたが、本当にそこで発動するだけでよいのか? あんたたちなら……とくにカトレイル教の中でも副教祖などという高い地位にいるあんたなら、神器を利用すればもっといろんなことができると思うが」


「我々が欲しいのはそこで(きた)る日に神器を発動した、という事実だけです。

 その後の神器の処遇はリーダーの思う通りに」


 絶対に……それだけじゃないと思う…………。


「ありがたい。ところで、忍びの女はどうした? いつもはべったりとあんたにくっついていたのに」


 忍びの女……? まさか…………


「そう、そのこともご相談したかったのです。

 彼女は龍石の下の首飾りを手に入れる時に少々怪我を負ってしまって……今は別の場所で休養させています」


 龍石の首飾り⁉︎


 あの時わたしに怪我を負わせた(ひと)もカトレイル教の関係者……‼︎


 まさか二つとも狙っていた理由は……先ほど必要だと言っていた六個をそろえる為……?


 わたしが再び目を開いて大吉さんの顔を見上げると、大吉さんもわたしを見ていた。


 もしかしたら龍石の首飾りを取り返すことも可能かもしれない…………!


「当日に間に合わない可能性もあるので、申し訳ないですが人員の補充をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「同レベルの使い手ともなると当ても少ないんだが……」


「神器の力を最高のレベルで引き出すにはそれなりの手練れでないと無理ですからね……ですが、この協定を結んだ時お伝えしましたが、こちらから協力の出来る使い手はこの二人と彼女だけなのですよ。わたしはその時、発動された神器の力を取り纏めなければならないですし……」


「……わかった。あんたたちには、秘薬の礼もある。何とかしよう」


「ありがとうございます。ところで、その秘薬の材料、砂糖のことなのですが──

 調達はいつ頃になりそうですか?」


 砂糖──⁉︎


 わたしは再び大吉さんの顔を見る。


 すると大吉さんも同じことを考えているのか、驚いた顔でわたしの目を見てからドアの方に視線を移して目を細めた。


 まさか──砂糖がこの人たちに繋がるなんて────!


「心配せずとも次の便が数日後には来る。

 先日渡した砂糖での製作はどうだ、上手くいっているのか?」


「上々です。今日はこれだけお持ちしました」


 そう言って何かを取り出し、テーブルの上に置く音が聞こえた。


「おぉ……これはまた美しい。

 まるで粗削りされた色とりどりの鉱石のようだな……。

 これこそ本当に無償でいいのか?」


「製作が軌道にのり、販売が開始された時からで結構ですよ。

 使い手の件でご迷惑をおかけしてしまいますし。

 あとは──今の政府と教会のありように、私も思うところがあるのですよ…………

 私が関与していることを黙っていてくださればいくらでも協力しましょう」


「そうか……ではありがたく受け取っておこう」


「質は変わっていないはずですが、一つ試したらいかがですか? 品質の確認は大事ですよ」


「……では一つ」


 コルク栓の蓋を開く音が聞こえる。


 食べ物……? 砂糖で作る……鉱石のよう……?


 ……まさか……琥珀糖⁉


 ガリっという音がして、それが固いけれど簡単に咀嚼できる物だとわかる。


 やっぱり琥珀糖……!

 でも琥珀糖がいったい────


 咀嚼音が小さくなってきた時……大吉さんが呟いた。


「まずいぞ……気づかれるかもしれない……!」


 ……何故……?

「奴の気配が変化している……!」


「……素晴らしい……感覚がクリアになるこの感じ……」


「良かったです。今新色も試しているそうなので、そちらの効果も判明したらサンプルを持ってきましょう」


「あぁ、ありがたい」


 アーティファクトの光は阻害され見えず、会話だけが聞こえ……なんとももどかしい感じがしていた。


 まるで突然なんの明かりもない暗闇に放り込まれたような不安感が…………


「ところで、お前たち…………後を付けられたな? ネズミが三匹いるぞ」


 ……‼……


「撤収だ! 俺がひきつけてる間にお前たちは何とかしてアグネスたちの方へ行け!」

「了解しました!」


 小声での短い応酬の後、物置から出ると同時に目に入ってきたのは、書斎テーブルのすぐ向こう側まで来ていた、二十センチ程のナイフを手にしている見覚えのない顔の男。

 短く刈り上げられた髪に整えられた顎髭。きている服こそ野戦服のような物だったが、その風貌から力だけの男ではなさそうだとわかる。


 この男がファイグスとやらのリーダー⁉︎


 そしてその後ろの方、ソファにゆったりと座るあの男と目が合う──


 僅かな瞬間だったけど、見開かれた目が歪んでいくのが見えた気がした。


 わたしが籐騎くんの手を取りアグネスたちがいる方の扉に向かおうと動いたその時、まだ長椅子の所に座っていたはずの女、詩織がすでに扉の前に立っていた。


「あら、あなた達──」


 アーティファクトか、それとも身のこなしか、いずれにせよ只者ではないだろう……


「ステルスの細工を外してくれて助かったわ。おかげでコレを見つけられたのだもの」


 そう言うと、女は胸元からジャラリとあの十字架入りのネックレスを取り出して見せてきた。


「……!……」


 ジリジリと近づかれ、藤騎くんと手を繋ぎながらほんの少し後ろに下がると、わたしの背が大吉さんの背と重なった。


「ステルスの細工……?」


「あら、気づかなかった? これの表面についていた銀色の膜」


「汚れだと思ってぬぐい取ったアレ……?」


 デザインを無視して機能のためだけに無理やり塗ったのか。


 アーティファクトが可哀そうに…………


 意識はしていなかったけれど、憐れむような目で見てしまっていたのだろうか、彼女はわたしを睨んで言った。


「……汚れだなんて失礼な……! 機能重視だけれど角度によって見え隠れする、すてきなコーティングよ!」


 ムキになってそう言うあたり、別の人からも似たようなこと言われてきたのか。咳払いを一つすると、不敵な笑みを浮かべて言った。


「ところで……こんな所まで入り込んできて、無事にお家に帰れるとでも思ってるのかしら……?」

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