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ハンドメイダー異世界紀行⁈  作者: 河原 由虎
第一部 四章 キョウトにて
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226. 研ぎ澄まされる感知の能力

 全滅を避けるため、アグネスとフェイには反対側の東北側から侵入してもらうことにして、予備で作っておいたコウモリパーツ入りの連絡用アーティファクト、イヤカフタイプをアグネスに渡しておく。


「白っぽいマントの男と、黒いフリフリスカートの女を見つけたら、すぐに連絡したらいいんだな?」


「はい、アーティファクトを意識して『起動』と言ってください。そうするとわたし達のコレと連絡が取れるようになって、ものすごい小声でも通じます。もし返答がなく心配だったら、念のため小さな声で数回繰り返してください」


「使用可能距離はどのくらいだ?」


「十キロ程度みたいです」


 フェイからの質問にそう答えると、


「こいつも神器並みの力だな……⁉︎」


 目を丸くして驚くアグネスと、その言葉に表情をできるだけ動かさずに内心汗をかくわたし。


 え、そうなの……?


 ちょ、大吉さん何故それを教えてくれなかったの。

 知ってたらもうちょっと誤魔化した言い方したのに……!


「大吉さん、念のためやっておきますね、例のアレ」


 笑顔で大吉さんを見ながら、とりあえず話を逸らそうとわたしは話を続け、大吉さんは苦笑しながら手を合わせて、スマナイ、とサインを送ってきた。


 それを見て、しょうがないと一息ついた後数回深呼吸をして呼吸を落ち着かせ集中力を高める。


 両の手を皆の方に向け、目を閉じて全員の持つアーティファクトに自らの光を抑えるよう語りかけてみると──


 持ち主の力量に影響されるらしく、アグネス、フェイの物は限りなくゼロに近く、藤騎くんの物は先ほどより幾分かは小さくなった。


「あちらに視える者がいるかどうかわからないですが、これで多分よっぽどでなければ気付かれないはずです……」


 わたしが警戒しているのはあの男…………


 あの男が向こうから来た者ならば、クゥさんやわたしの様に使用していないアーティファクトの光も見えるかもしれない。


 そしてわたし達以上に視える者ではない、という保証はどこにもないのだから──


「ありがとうな。

 じゃ……いくぞ────」


 大吉さんのその言葉を皮切りに、アグネス達は東北側の入り口へ向かい、わたし達は一番近い扉から中へと退路を確認しながら侵入していった。


 中へ入るとそこは、明かりを入れるための窓は汚れで曇り、日は陰っていないのに薄暗く。一階と上の方へ続く階段には何の明かりもないようだったが、地下に向かう方へは、足元に非常灯のようなものがホンワリついている。


 藤騎くんに確認しながらその下へ向かう階段を進んで行くと、地下は一階までしかないようで、階段はそこで終わりだった。


 その先は、ごちゃごちゃと物や棚の置かれた一本の通路が伸びていて、両側に部屋があるらしく棚で見えにくいところもあるけど等間隔でドアが付いているらしいことがわかる。


 全体的に非常灯の様な明るさで、人感センサーみたいなのがついていたらどうしようかと思ったけれど、階段も似たような明るさで特にそういうものは仕掛けられていないようだったので、多分この通路も大丈夫だろう。


「どうだ? 藤騎」


 階段ホールの壁に身を隠しながら通路の奥の方を確認して大吉さんが聞いた。


「ダメだ……はっきりしない……だいぶ近いってことはわかるんだけど……」


「藍華はどうだ?」


 藤騎くんの追跡アーティファクトではっきりわからないということは、追跡を阻害するような物があるということ。


 わたしはこの先にある全てのアーティファクトを感知する勢いで感覚を研ぎ澄ませてみた。


「通路の両側、いくつかの部屋にも感知を多少阻害される場所があります……。

 突き当たる位置に反対側からの通路と繋がる部屋があるようで、その向こう側……反対側の通路の方にも似たような箇所があります……。

 突き当たりの部屋にはいくつかのアーティファクトの気配はありますけど……そこまで強くはないみたい……」


「その感知阻害されてるとこをチェックしていけばいいって事だな」


「藍華ねーちゃん……すごい感知能力だね……!」


「わたしが感知出来るのはアーティファクトだけ、よ」


 尊敬の眼差しで見てくる藤騎くんに、わたしは苦笑しながら答えた。


 人の気配とかは全くの専門外。アーティファクトも持たずに物音立てずに近づかれたら、気付けない自信がある。


「とりあえず最奥の部屋を目指そう。

 俺が先頭で確認しながら行く。もしこのハンドサインをしたら、退却だ」


 大吉さんはわたし達の緊張感をほぐそうとしてくれているのだろう、そう言って笑顔で右手人差し指を上に向けツンツンとして見せ、わたしと藤騎くんは一度目を合わせてから笑顔で頷いた。


 多分固い笑顔だったろうけれど。


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