223.天信光教会とカトレイル教会
「腹ぁ括ったのか? 大吉。お前あんまりこういう表だった事件とかに関わるの、好きじゃないんだろう?」
そうアグネスに言われる大吉さんの表情は先程から真剣な眼差しのまま動かない。
「……腹なんか括ってない。括ってないが…………」
大吉さんはバシッと両手で顔を覆い、突然ヘロヘロと座り込んだ。
「只今考え中……」
悩む大吉さんを目の前に、その動作にきゅんきゅんしているのに、別の事でざわつく心に気づいてわたしは言葉を絞り出す。
「大吉さん…………
一つ……確認しておきたいことがあります……」
「なんだ?」
思い出したくもないけれど……忘れてはいけない、放っておいては解決しない問題が……わたしには、ある。
「……教会って制服のようなものがあるんでしょうか……?」
「制服……確かあるはず……」
「教会関係者、それも地位の高いものはマントを羽織ることが多いらしいが……」
大吉さんが思い出そうと考えている間に、フェイが答える。
「わたしが……盗賊に攫われた時、あのアジトにいた人…………」
普通の人はこの時期マントなんかつけていない。共通点が多い。そしてあのマントの雰囲気────
「……マントの雰囲気が似てるんです……」
「なんだって⁉︎」
「盗賊のところに教会関係者が⁈」
フェイとアグネスは口々に驚愕の声を上げ、大吉さんは何かを思い出そうとしているのか、腕を組んで目を瞑り、俯いている。
「ただ……伏見の稲荷の神様は『天信光教会』と行っていた気がするんですが……」
「藍華ねーちゃん……それはカトレイル教会の昔の名前だ……僕こないだ授業で習ったよ……」
「マジでか⁉︎」
大吉さんがそう声を上げると、藤騎くんは呆れた顔をして言った。
「……授業ちゃんと習わなかったの?」
「私だって知ってるぞ」
「俺だって」
常識、のうちのことらしい。やば……
「再生の日から三十年程経った時に改名したって」
「あははは……。きっとその時寝てたな。俺にとって歴史の授業は睡眠を補給する時間だったから……」
「じゃぁ藍華は……?」
と藤騎くんに言われて、咄嗟にわたしは答えた。
「わ…………わたしは子供の頃の記憶が曖昧なのよねー。はっきり思い出せなくて……しっかりと意識があるのはここ数年のものなのよ」
そう。成人してからはしっかりと自分の意思で選んで生きてきた。だからコレは完全に全くのウソではない、と自分に言い聞かせながら皆に説明した。
「まぁ、その話題は置いといて」
わたしは自分の前から横に両手でエア荷物を置くフリをして、話の先を促した。
「あの人物が教会関係者であるなら、かなり高い地位の人だと思うんですよね……マントの刺繍が下っぱな感じではなかったんですよ」
あの荘厳な手刺繍は、何日もかけて完成させたものだと思うのだ。
「大吉さん、あの時記録画像撮ってましたよね、アレ今確認できますか?」
「藍華が大丈夫なら……」
大丈夫か? と伺うようにして聞いてくれる大吉さん。わたしはなんとか笑顔を作って答えた。
「確認しましょう……。
それで犯人の……犯行グループの詳細が少しでもわかるのなら……!」
大吉さんがアーティファクト七つ道具の中から画像記録用の物を取り出してそれを起動すると、中空にまるでホログラムのように画像が浮かび出る。
内心めちゃくちゃ感動モノで、根掘り葉掘り聴きたいし舐め回すようにそのアーティファクトを見たかったけれど、これ以上ボロは出したらいけない、と大人しくしておく。
その画像はスクロールで次の画像が見えたり、まるでスマホで拡大縮小する時のように大きさを操れるようで、大吉さんは六枚の画像が同時に確認できるよう調節した。
そしてそこには…………尻を上げた状態で気絶しているなっさけない格好の男が色んな角度で記録されていた。
わたしがパンチを入れたのは鳩尾だったため、顔は無傷だが白目剥いて涎が垂れている。
イケオジであるという片鱗も見られない。
「年月や場所まで記録できるやつじゃないんでただの『恥ずかしい画像』だが、奴にとっては良い記録だろう?」
大吉さんは笑いながら言った。
「大吉……いいかげん記録できる奴作るか買えよな……いつ何時役に立つかわからんぞ」
フェイの言葉にできるだけ早く入手するよと答え、画像を何枚か選んで表示し、何箇所かを指でなぞると、赤い色で線が引かれる。
マークされたそれは、手袋とマントの一部で……
「……!……」




