222.神器を狙った組織とは
「二人とも大丈夫か⁉︎」
合流しやすいようにと、わたしと藤騎くんが道の脇にたどり着いた時、大吉さんがやってきて言った。
「二人とも怪我はありません。けど……」
「ごめんなさい……! 十字架のアーティファクトを誰かに奪われちゃった…………」
藤騎くんの、俯いたその瞳から涙が数滴こぼれ落ちた。
「僕が持って行きたいなんて我儘言ったから……!」
「……我儘じゃない。
特殊部隊に所属して目的の物を手にしたなら、持って帰るまでが任務になる。お前のおじいさんは立派にやってのけていただろう?」
「……うん」
「もっと精進しなさい、ってことだ。これから頑張ればいい」
そう言ってしゃがみ込み、大吉さんは藤騎くんの頭を撫でた。
「はぐれたついでに煙の出どころに行ってみたが、廃屋が一つ軽い爆発で崩れて焼けたみたいだった。
ただ、あれだけじゃこんなに煙は出ないと思うんだがが……」
未だ収まらぬ煙は辺り一面に広がっているけれど、先程とは少し雰囲気が違う気がする。
煙の動きが…………
「……!……」
まさか……!
「大吉さん、突然この煙散らして消したらまずいですよね……?」
「それはやめといた方がいいな。一応任務中だと考えると目立つ行動は控えた方がいい」
なるほど。
「じゃぁ、少しだけかき回してみます」
「掻き回すって……?」
「風よ、少し駆け巡っておいで」
先ほどと同じように感覚を風に乗せて、わたしは風のアーティファクトを起動させる。
すると、先ほどとは打って変わって、まるで何かから解放されたかのような自由な感覚。風と共に広がる視界が、大きな怪我人はいなさそうだとわたしに伝えてくる。
この感覚の差……
「……大吉さん、この騒動もしかしたらあの十字架のアーティファクトを狙って起こされたものかもしれません……」
この、風を起こした時の感覚の違い…………。
あの時は何か別の力が働いてたとしか思えない。
それにあの二人は迷うことなく藤騎くんの方に向かって行った。
違和感しか感じない。
「そうなのか……?」
「先ほど藤騎くんを探した時にも風を起こしたんですけど、その時にあった圧力のようなものが消えてます……あの煙は何かのアーティファクトの力で起こされ、コントロールされていたのだと予測できます」
「マジでか……」
腰を上げてそう言うと、腕を組んで大吉さんも何か考え始めた。
「一人は男性で身長は大吉さんと同じくらい、服装は白っぽいマントに隠れてよく見えませんでした。
もう一人は女性歳はわたしより若そうで、黒っぽいヒラヒラのスカートで…………」
あれ……? この人相何処かで…………
あんな人たち会ったこともないはずなのに。今人相を改めて口にしていると、見たことがあるようなないような、でも『知っている』という感覚が…………
「あ、お前達! ここにいたのか?」
「なんなんだこの騒ぎは。何か知ってるか?」
煙の向こうから、沢山の人に紛れて知った顔が二つ、わたし達を見つけてやってきた。
そして。わたしは二人の、アグネスとフェイの顔を見て、唐突に思い出した。
「あ────‼︎」
なんだなんだと全員がこちらを見てわたしは我に返った。
「あの! 大吉さんがギックリ腰になった時、フェイが姿を見たって言っていた人達の人相をもう一度教えてもらってもいいですか⁉︎」
フェイが人相、というか服装を言うと…………
「一致するな……この時期マントなんかつけてるやつそうはいないし」
大吉さんが何かを思い出したのか腰をさすりながら言った。
「あそこから追いかけてきたってことか……?」
「わざわざあそこから……?
もしかしたらトウキョウから神器を追ってきてたってことか……?
なぜ守りも強固なキョウトに着いてから決行したんだ……?
輸送の道中の方がどう考えても守りは薄いってのに」
アグネスの言葉に、そう簡単には成功させないけどな、とフェイは付け足した。
「それは多分……奴らの本拠地がこっちの方だからってことも関係してるだろう……」
カトレイル教の本拠地ってキョウトなの?
「何か知ってるのか?」
アグネスとフェイの言葉に、大吉さんは一度わたしと目を合わせてから事情を説明した。
「じゃぁこういうことか?
奴らは何故か神器を集めていて、トウキョウから運ばれてくる神器を狙っていたと。
守りの薄いここまでの道中にて狙ってこなかったのは、おそらく戦力が十分でなかったため。
十分な戦力を整え、ここキョウトで保管場所に運ばれる時に決行し、その際奴らが元々持っていた神器並みのアーティファクトをそこの少年が追跡アーティファクトで神器と間違ってマークして、それが何故か闇市で売られていた、と」
フェイが一息で経緯をまとめて言った。
「神器並みの力があるアーティファクトだったんだな? 奪われたそれ」
「奴らからしたら、取り返しただけ、なんだろうがな」
アグネスの言葉に少し訂正を入れる大吉さん。
「そして、カトレイル教の印が入っていたと…………」
「あぁ」
「めちゃくちゃ大事じゃないか……? コレ」
「そうだな…………」
フェイの言葉にだんだんと声が小さくなっていく大吉さん。
カトレイル教の規模がいまいちわかっていないわたしには、その『大事』がどの程度の事なのか分からず、大吉さん達の会話を大人しく聞いておく。




