219.追跡していたそれは…………
闇市は、だいぶガタが来ていそうな木造の建物の前に色々な物品の露店が並び、アーティファクトとしての良し悪しは、ピンからキリまであるようで。
淡い光から強い光、果ては全く光っていない元アーティファクトまでもが並んでいた。
奥に行くほどに人は増え、行き交う人々の様相も様々になってきた。
先程人相の悪い人とぶつかり難癖つけられそうになった藤騎くんは。
今は大吉さんと手を繋いでいる。
利き手でない右手でサインを出すために、左手で。
…………
わたしは避けれるから! 人の波!
当然よ。当然なのよ……
ぃぃな…………
わたしからの視線を感じているのかどうかは分からないけれど、時々こちらを確認する大吉さん。
わたしがちゃんと着いてきているのか確認してくれているようだ。
わたしはというと……仕事で地方に住むようになるまでは、それこそ都心に近い所に住んでいたというのもあって、人を避けながら歩くことが身に染み付いていたし、加えて警戒度を上げたことで、誰ともかすることさえなく二人の後からついて行っていた。
ただ、警戒度を上げるのと同時にアーティファクト感知の力も上がってしまって、色んなところで立ち止まって眺め回したい衝動にも駆られていた。
油断すると、ぼーっと立ち止まってしまいそうで、わたしは必死に意識を二人に向けて後からついていく。
また一つ、気になる気配を断ち切って視線を二人の繋いでいる手に移すと、籐騎くんがギュッと大吉さんの手を握りなおした。
見ると籐騎くんは、右手で大吉さんから教わったハンドサインを出している。
人差し指を立てて、右側にある露店の方を指していた。
大吉さんは軽くうなずき、わたしに視線を送る。
わたしはそれに応え、軽く頷いた。
そこから少し歩き、その屋根付き屋台の前で立ち止まると籐騎くんがゼロ距離のハンドサインを出した。
屋台の上のアーティファクトたちは殆どが傷ついたり壊れたりしていて、どれも修復が必要そうだけれど、物自体はレベルの高いアーティファクトが多そうだった。
いくつかは目を見張る細工のものもあり、他の露店より一段階レベルが高いようにも感じられる。
台の向こう側には、白髪交じりで長いこと梳かしていなさそうなばさばさの髪を後ろで一つにまとめ、ヨレヨレになったシャツを着た小さな老人が一人、座っていた。
「おぉ、色々あるな」
大吉さんは、台の上の物を一瞥すると、藤騎くんに聞いた。
「この店が良いのか?」
「うん」
少し緊張したような様子で藤騎くんがそう答えると、籐騎くんの後ろから台の上を覗いていたわたしをチラリと見て大吉さんが言った。
「そうか、わかった。何か気になるのはあるか?」
「そうですねー……」
見た限り、奪われたはずの神器は見当たらない。けれど、それこそ神器並みに力の強いアーティファクトが一つだけ、そこにはあった。
「そこの……チェーンが切れちゃってますけど……。パールがメガネ留めされてて、トップが十字架のやつ、ですかね」
店主の手元に一番近い所に置かれているソレを指してわたしは言った。
大吉さんが藤騎くんをみると、こくこくと頷いている。
「おっさん、いくらだ?」
大吉さんは、屋台の向こう側に腰かけていた店主らしき人物に声をかけた。
店主は、わたし達の様子から良客が来たとばかりに明るい顔をして話しはじめる。
「あんちゃんたちお目が高いねぇ! これは最近入ったばっかだが、おそらくカトレイル教団の支部長クラスが持ってたもので、ものすんごい力を持ってるぞ!」
「そんな出どころのやつじゃぁ表で簡単に使えねーじゃないか。まけとけヨ! 警察には駆け込まないどくからさー!」
「へっ、警察に駆け込めるような奴はこんなとこに来ないだろうが! 金額はこれだ! びた一文まけねぇぞ!」
そう言って、おじいさんは両手の指を全部立てた。
ひゃ、百⁉ 百万ってこと⁉
「いやいや、それはないだろぅ! せめてコレ! これ以上は出せないね。
作り直すにも金かかるんだから!」
そう言って大吉さんは指を四本立てる。
なるほど、盗品売買で手に入れて、表に出せないアーティファクトを堂々と使ったり売ったりするために、作り変えたりする輩もいるというわけなのか…………
「ちっ……よくわかってるじゃないか」
「むかーしな。高い金出して買って、流せるように作り変えてもらったら、失敗しちまって大損こいたこともあんだよ。こういうのに手を出せるマスターも少ないし、裏でやってくれるやつはぼったくってくるし、な」
悪そうな顔して話してる大吉さんもカワぃ…………
「わぁったよ! これだ! これ以上は負けねぇ!」
そう言って、店主は左手をパーにして、指を五本立てて言った。
「えー! もう一声ー!」
「あの、ちょっと良いですか?」
ツンツンと、大吉さんの背中をつつきながら声をかけた。
「おじさん、そこの黒い鉱石型のが入ったやつと、そのワイヤーの指輪をおまけしてくれます?
そしたら多分五十出しても良いですよ」
この店の中でも光の強い方である二品を指して言うと、
「お嬢ちゃん……もしかして見えるクチか……!?」
「すこーし、ね!」
「なーなー、じいさん。どうだ? その二品つけてくれるなら五十出してもいいぞ?」
おじいさんは、わたし達を一瞥すると言った。
「お前さん達、よく見るとすごいモノ持ちじゃねぇか。特に兄ちゃんの着けてるブレス、相当……だ……?」




